第642話 路線価よりも高い都心の時価
とある不動産鑑定士の方と話していたのですが、相続税の計算で使う路線価は、おおむね時価の8割と言いながら、東京23区などでは、時価の半分以下になることも珍しくないそうです。不動産の相場は専門ではないので確実なことは言えませんが、東京オリンピックなどの影響で、都心の時価は上がり続けているのでしょうか。
このような場合に押さえなければならないことは、相続税の財産評価基本通達の総則6項です。この総則6項では、通達の評価額が財産の適正な評価額と比べて著しく差があると認められるときは、財産評価の原則に関係なく国税が評価額を決めることができる規定です。都心の路線価が時価の半分になるのであれば、国税的には「著しい差がある」と判断される可能性が大きいですから、都心の土地を相続開始前に買うと総則6項が適用されるリスクが大きくなります。
困ったことにこの総則6項を適用するのは、国税にとって内部決済の手続きが簡単で難しくありません。
また、土地を買うことよりも相続開始後すぐ土地を売る場合の方が問題になるという専門家もいます。その理由は、売却してしまえば、売却金額を時価と見ることができるため、国税にとっては面倒な評価をする必要がなくなるからです。
しかし国税の内規によると、時価と路線価など相続税の通達の評価額との間に「著しい乖離が生じたことにつき納税者の行為が介在している」ことが総則6項の適用要件の1つに挙がっています。相続開始後に売却しても、通達の評価額は変わりませんので、建前としては売るタイミングは大きな問題にはならないと思います。
いずれにしても、路線価よりも時価がかなり高いとなると、都心の土地が絡む相続や不動産取引については、絶えずこの総則6項のリスクがついて回ることになります。
実際のところ、この総則6項では、それを適用するにあたっては、「国税庁の指示」が必要と明記されています。国税庁長官の指示くらい厳格な決裁を取らないと、安易な課税につながる可能性があるためにこのような規定になっていると思われますが、どういうわけか、国税庁の指示がなくてもこの規定を適用していいといった判例があります。国税に関して能力の乏しい裁判所が、誤った解釈により国税の横暴を許しているのです。これが今の税の実態なのかもしれません。
文責 仙台市で相続税に特化した税理士事務所|栁沼隆 税理士事務所
所長 栁沼 隆
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