第760話 ゴーン氏の〝逃げ得〟
日産自動車前会長のカルロス・ゴーン氏の〝国外逃亡〟から1年以上が経過しました。同氏が現在住むレバノンと日本は犯罪人引き渡し条約を結んでおらず、係争中の裁判を含む様々な法的手続きはストップしたままの状態です。ゴーン氏が申告しなかったとされる約11.5億円から得られる税収もまだ失われたままです。
金融商品取締法違反(有価証券報告書虚偽記載)と会社法違反(特別背任)で逮捕されたゴーン氏は、保釈中で海外への渡航が禁止されるなか、2019年12月30日に米軍特殊部隊の元隊員らの手を借りてレバノンに出国しました。
ゴーン氏は8年間で約11億5千万円の申告漏れを日本の国税当局に指摘されています。日産が東京証券取引所に提出した報告書によれば、株価連動報酬を不当に約1億4千万円多く受給したことに加えて、同社のジェット機を私的に利用していたそうです。国税当局はこのジェット機の私的利用分を同社の経費として認めなかったほか、東京や海外居宅の家賃についても私的流用と認定しました。また日産がゴーン氏の姉に支払ったコンサルティング料は架空の業務委託とされ、重加算税が認定されています。
さらにゴーン氏は、日産からも長年の私的流用で損害を被ったとして100億円の損害賠償を求める訴えを起こされています。2019年11月に始まった裁判では、ゴーン氏は「日産の一部による不可解な内部調査と検察による不当な逮捕・起訴の延長であり、訴えの内容には全く根拠がない」と全面的に争う姿勢を見せていましたが、 〝主役〟であるゴーン氏が不在のなか裁判は進まず、またもし日産側が勝ったとしても、ゴーン氏はすでに国内で差し押さえ可能な財産を保有していないことから、回収は絶望的とみられています。
そうしたなか、昨年12月にはフランスの税務当局が16億4千万円相当の資産を差し押さえたと現地メディアが報じました。ゴーン氏は2012年に税法上の居住地をフランスから税負担の軽いオランダに移しましたが、フランス当局は、同氏のオランダ移住には居住実態がなく税逃れが目的の虚偽申告だったとして調査を進め、少なくとも数年間は仕事や私生活上の拠点がフランスにあり、納税義務があったと認定、資産の差し押さえに踏み切りました。差し押さえられたのは、パリ市内に購入した高級マンションに加えて、自動車大手ルノーの株など、ゴーン夫妻が所有する資産1300万ユーロ、日本円で16億4千万円になります。
1月28日、日産自動車のカルロス・ゴーン元会長の国外逃亡を手助けした元アメリカ陸軍特殊部隊「グリーンベレー」のマイケル・テイラー容疑者と息子のピーター・テイラー容疑者の2人について、ボストンの連邦地方裁判所は日本への引き渡しを認める決定を下し、東京地検は3月2日、逃亡を手助けした犯人隠避容疑で米国人親子2人を逮捕しております。またカルロス・ゴーン被告の国外逃亡事件でトルコの裁判所は2月24日に、密航を手助けしたとされる3人にそれぞれ禁固4年2カ月の実刑判決を言い渡しております。裁判の結果次第では、ゴーン氏送還に向けた可能性が開けるかもしれません。
税金を納めないままの〝逃げ得〟が許されたという前例を作らないためにも、国は全力を尽くす責任があります。
文責 仙台市で相続税に特化した税理士事務所|栁沼隆 税理士事務所
所長 栁沼 隆
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