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納税者のお金の流れを把握するために当局から送られてくる「お尋ね文書」が急増しています。当局がコロナ過での効率的な手法として多用し始めているのでしょう。お尋ね文書は行政による問い合わせに過ぎませんが、書面には税務調査に発展する可能性も示唆されていることから、納税者としてはどう回答してよいのか迷う時も多くみられます。

お尋ね文書とは、国税当局が「簡易な接触」に分類する調査手法の一つで、納税者の元に通知書を送り、回答を得ることで取引内容や資産状況を確認するものです。

相続の開始や資産の売買など基本的にお金の移動があったと判断する場合に納税者に送付し、寄せられた回答は資産や所得の動きを把握するための資料となります。

文書の形式は各税務署や納税者の取引によって異なっており、名称も「資産の買入価額についてのお尋ね」「申告書についてのお尋ね」「相談のご案内」など様々です。

納税者と接することなく効率よく情報を収集することができますので、ここ数年は増えており、さらにコロナ過では感染防止の観点から重宝されています。事実、コロナの流行前と比べて文書送付1件当たりの追徴税額は増加しており、費用対効果が高い手法として定着しつつあります。

コロナ前より増加傾向にある「お尋ね文書」ですが、今後はさらに増加傾向になることが予想されます。当局としては、コロナの感染拡大が止まらない中、税務調査によってコロナに感染することは避けねばならず、ましてや税務調査官から納税者に感染させることなど決してあってはならないことです。また、コロナ不況の中での強引な調査で世間の反発を買うわけにはいかず、国税庁長官の可部哲生長官が「コロナ過では調査・徴収の効率化・高度化を図る」と年始のインタビューで述べていることからも、ウィズコロナ時代の税務行政に「お尋ね文書」が外せない存在であることは容易に推測できます。

実際、2019年事務年度の相続や贈与に関するお尋ね文書を含む「簡易な接触」は8632件行われ、新型コロナの影響で前年度(10332件)からは大幅に減ったものの、申告漏れ等のミスや不正が発覚した件数は2282件と、前年度の2287件からの微減にとどめることができました。簡易な接触1件当たりの追徴税額についても48万円で前年度比14%増となっています。

納税者との接触を避ける手法はコロナ過では合理的ではありますが、納税者サイドから見たら、その扱いに困ることも多いでしょう。お尋ね文書をはじめとするこれらの送付物は、税務調査の一環なのか、行政による指導なのか、あるいは単なる質問に過ぎないのかが、極めて分かりにくいのです。

厳密にいえば、お尋ね文書はあくまでも行政手続き(行政指導)の位置づけに過ぎず、関連法で「行政手続きに従わなかったことを理由として、不利益な取り扱いをしてはならない」と定められていることから、お尋ねに対して回答しないというだけでは必ずしも罰則を受けることはありません。

ですが送付された納税者の心情としては、税務調査を受けていると感じる人も多くみられます。確かに、多くのお尋ね文書の下部には「調査ではなく行政指導」と書かれていますが、これを無視していいのかどうかの判断はつきにくく、さらにその下に「調べた結果、申告が必要になったときは過少(無)申告加算税が課されるときがある」などと書かれてある為、予備知識なく受け取った納税者が簡単に無視できるものではありません。

とはいえ、これに回答している納税者は多数派というわけではなく、2019年度の相続税や贈与税に関するお尋ね文書8632件の内、回答は3115件で全体の36.5%でした。つまり6割以上の納税者は無回答という状況になっています。

相続税の申告が必要な人は2度手間になるので、お尋ねに回答する必要はありません。一方、遺産総額が控除額以下で相続税の申告が不要な場合など税務申告をしない人は、税務調査を受けるリスクがあるので回答するべきでしょう。

日本弁護士連合会は、お尋ね文書は国税の調査に該当する可能性があるものとして、実地調査では必要な事前通知や調査終了時の説明責任をお尋ね文書の送付でも回避してはならないと断じています。しかし是正されず現在に至っています。

現状でも簡易な接触の件数は、相続税や個人消費税では実地調査とほぼ同数で、所得税に至っては実地調査の6倍以上も実地されており、実地調査をカバーする手法として当局内では活用されています。

文責 仙台市で相続税に特化した税理士事務所|栁沼隆 税理士事務所

所長 栁沼  隆

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