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 亡くなった人が遺言書を作成していなければ、遺産をどう分配するかは相続人全員の遺産分割協議によって決められることになります。協議の成立には相続人の全員一致の合意が必要になる為、相続人の中に一人でも異議を唱える人がいれば協議不成立となり、争いが生じることになります。その結果、裁判所での調停・審判などの手を借りて決着することになりますが、そのような状況においては家族関係において重大な禍根を残すことになるでしょう。

 もちろん、円滑な相続のためには遺言を作成することが望ましいことではありますが、遺言を作成したからと言って、すべて思い通りの遺産の分割ができるわけではありません。父母や配偶者、子など一定範囲の法定相続人には、「遺留分」が存在します。遺留分とは「最低限の遺産を取得できる権利」のことで、民法では遺言を、相続割合を自由に決定することを認めていますが、但し書きで「遺留分に関する規定に違反することができない」と規定しています。

 さらにこの遺留分を考える時に忘れてならないのは、死亡時の相続財産だけではなく、特定の相続人へのまとまった額の生前贈与分についても、原則として「特別受益」として遺留分の基礎となる財産に加えられるという点です。

 ある企業では、先代経営者が生前に自社株式100%を後継者である長男に生前贈与し、他の事業用資産についても遺言書を作成して長男に引き継ぐ旨を明記していたところ、死後に長女から「遺言の内容に納得できない。後継者に生前贈与された自社株式を含めて遺留分の侵害をしている」と主張されてしまったといいます。

 後継者である長男への自社株式の贈与は死去5年前に行われ、既に贈与税の納付も済んでいましたが、残念ながら長女の遺留分請求は正当なものです。長男には気の毒ですが、長女を説得できない限り、遺留分の行使を止めることは出来ません。こうしたトラブルを防止するには、遺留分までを考慮した遺言を作成したり、遺留分侵害に相当する金銭をあらかじめ準備したりしておくことが重要となります。

 遺留分を巡っては2019年に民法改正があり、遺留分の行使は「減殺請求(現物対象)」から「侵害額請求(金銭請求)」となりました。これにより自社株の共有による経営権の阻害が起きないようになっています。また遺留分侵害額に相当する金銭をすぐに準備することができないときは裁判所に対して支払期限の猶予を求めることができること、遺留分侵害額の算定の基礎となる「特別受益」が相続開始前10年以内の贈与に限るようになった事など、様々な見直しが行われております。

文責 仙台市で相続税に特化した税理士事務所|栁沼隆 税理士事務所

所長 栁沼  隆

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