第787話 最愛のペットの差し押さえ
税金を滞納しますと、税務署から督促状などが届きます。督促に応えず、また延納なり分納なりでも納めていく意思を示さないと、当局は最終的に「差し押さえ」という手段にでることになります。税務署なり自治体なりの差し押さえは非常に厳しいものですが、それでも法律上、最低限これだけは差し押さえてはいけないという財産も存在します。
国税徴収法の75条から78条までがこの「差押禁止財産」を定めていて、生活に欠くことのできない衣類などの必需品、食料や燃料、業務に欠かせない最低限の設備、一定以上の給与や年金などが列挙されています。そのほか実印、位牌、日記、学習用具なども禁止財産にあたり、主に生活の維持に欠かせないものと、最低限の権利とみなされるものが対象となります。
ところで数年前、ドイツの税務当局が血統書付きのペットを押収してインターネットで売却するという事案が発生しました。ある家庭が市税を滞納した結果、市職員と裁判所の職員が自宅を訪れて差し押さえる財産を物色し、一家が家族同然に可愛がっていた〝愛犬〟に目を付けました。1歳になるその黒バグは血統書付きで、ペットショップなどで買うと19万円~25万円などが相場でした。一家は愛犬を連れて行かないよう求めましたが、職員は押収し、インターネットオークションの結果、相場の半値の約10万円で購入者が付き、実際に引き渡されました。動物愛護家などから寄せられた批判に対して当局は「合法である」とのみコメントしています。
日本の国税徴収法でも、差押禁止財産にペットは含まれていません。つまり法律上は、日本でもペットを差し押さえることは違法ではありません。ですが滞納者がペットショップで業務用資産として動物を飼育しているなどの例外を除き、実際にペットが差し押さえられる事案はほとんどないようです。
近年では、地方自治体などの熾烈な財産の差し押さえが各地で問題となっています。
給与は差し押さえ禁止財産に含まれているにもかかわらず、銀行に振り込まれた時点で「給与ではなく、差し押さえ可能な預金債権に変わった」との口実で残高の全額を差し押さえるケースも発生しています。法律上認められている以上、愛するペットが差し押さえられ、転売される可能性すらゼロとは言えません。
文責 仙台市で相続税に特化した税理士事務所|栁沼隆 税理士事務所
所長 栁沼 隆
「所長の独り言」一覧はこちら
免責
本記事の内容は投稿時点での税法、会計基準、会社法その他の法令に基づき記載しています。また、読者が理解しやすいように厳密ではない解説をしている部分があります。本記事に基づく情報により実務を行う場合には、専門家に相談の上行うか、十分に内容を検討の上実行してください。当事務所との協議により実施した場合を除き、本情報の利用により損害が発生することがあっても、当事務所は一切責任を負いかねます。また、本記事を参考にして訴訟等行為に及んでも当事務所は一切関係がありませんので当事務所の名前等使用なさらぬようお願い申し上げます。