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 ひと昔前、時の法相、秦野章が「政治家に徳目(道徳の基本とされるもの)を求めるのは、八百屋で魚を探すようなもの」と発言して非難を受けましたがそのことを思い出させる事件がまた発生しました。2019年7月の参院選広島選挙区の大規模買収事件で、3月23日に逮捕・起訴された河井克行元法相がこれまでの全面的な無罪主張を一転させ、買収の意図を認めました。そして4月1日に衆議院議員を辞職し、6月18日に東京地裁で懲役3年の実刑判決を受けております。この事件では、買収に使われた1億2千万円の原資が政党交付金であった事実が明らかになっています。このような買収事件に発展してしまうのは、政党交付金の本質に問題があるのではないのでしょうか。皆さんと一緒に考えてみたいと思います。

 「全般的に買収罪ということを争うことはしません」。

 河井克行被告は、3月23日の公判で、妻の案里元参議院議員の票の取りまとめを依頼する目的で地方議員らに現金を渡したとの起訴内容を大幅に認めました。

 克行被告は2019年7月の参院選挙をめぐり、妻の案里氏が立候補を表明した2019年3月下旬から8月上旬にかけて票の取りまとめを依頼した報酬として、地元議員や後援会幹部ら91人に合わせて約2400万円を、また案里氏は克行被告と共謀し5人に対して170万円を配ったとして昨年6月18日、東京地検特捜部に逮捕されました。従来の公職選挙法違反は選挙運動期間中やその直近に直接的に投票や選挙運動への金銭等を供与する行為に限定されていましたが、選挙の公示・告示から離れた時期についても対象が拡大された点が今回の事件の特徴となります。

 これまで克行被告は一貫して買収行為ではないと容疑を否定していましたが公判では一転、買収を認めました。公職選挙法221条第一項には「当選を得る又は得させる目的」として選挙人または選挙運動者に対して金銭や財産上の利益を「供与」すれば買収罪が成立すると規定しています。河井氏が行ったとされる「供与」というのは、「自由にお金をお使いください」というものでした。現金を受領したとされる相手が、「安里氏を当選させる目的で渡された金である事」と「自由に使ってよい金である事」の認識をもって受領したことが立証でき、本件で買収罪が成立すれば、今後は広範囲で政治資金の使いみちが問題視されるでしょう。となれば、河井夫婦の逮捕のみならず、自民党本部からの資金の流れについても罪が及ぶ可能性が出てきます。

 二階俊博幹事長は3月23日の会見で「他山の石としていかなくてはならない」とまるで他人事のようなふざけた発言をしていましたが、自民党本部が公認を出しており、大きな責任があるのは誰の目から見ても明らかです。ましてや夫婦が支部長を務めた2つの自民党支部に対して党本部が提供した1億5千万円のうち、1億2千万円は政党交付金であることが明らかになっています。克行被告は、「1億2千万円は私自身の手持ち資金から出した」と話し、党本部から渡された金を買収に使ったことを否定していますが、この発言をそのまま受け取るのには無理があります。

 自民党本部が一般的な選挙費用の10倍近くの、原資が税金である政党交付金を選挙資金として提供したかどうかを裁判で解明しないのであれば、国会や他の裁判などで徹底的に解明し、我々国民に説明すべきです。買収を罰する「交付罪」は公職選挙法221条に定められ、もしも選挙での買収に使われることを認識したうえで資金供与していれば、自民党本部も同罪に該当します。そして交付罪が成立されれば交付の決定者が罪に問われることにもつながります。つまり前自民党総裁の安倍晋三氏の責任が問われることになります。

 政党交付金は政治とカネにまつわる不正の元凶である企業・団体献金を禁止する代わりとして1995年に導入されました。しかし企業・団体献金禁止などどこ吹く風と共産党以外の各政党は献金と交付金の2重取りをいまだ続けています。

 国庫から政党の本部に入金された政党交付金は、各党内で調整され、その後は党内で力のある議員の資金管理団体や後援会などに振り分けられます。一旦、政治資金管理団体というブラックボックスに入ってしまいますと、そこから先は完全な闇になっていて会計的に追うことができません。政党助成法では「政党交付金は国民の信頼にもとることのないように、適切に使用しなければならない」としているものの、「交付に当たっては、条件を付し、またはその使途について制限してはならない」と規定され、例外として禁止されている借金の返済と貸付以外は、基本的に使途の自由が認められています。また献金についても、政治資金規正法はザル法となっています。

 例えば、多くの政治家のホームページには以下の記載があります。

「政治資金規正法により、献金額の上限は年間1000万円まで、一人の政治家に対して150万円となっています。また年間5万円を超えて献金された場合は、献金者の住所・氏名等が収支報告書に掲載されますのでご承知ください。」

つまり、佐藤興業(仮名)の会社に、佐藤太郎(仮名)という社長がおり、衆議院議員の「山田隆史(仮名)」に500万円の資金を支援していたとします。献金額が150万円を超えていますので政治資金規正法に違反すると思われますが、実際には、従業員の一人一人から5万円ずつ細かく分割して献金していくと、どこにも記載が残らず、総額規制にも抵触しないことになります。

今回の買収事件で立憲民主党の議員たちは、当選無効になった案里氏の議員時代に払われた6534万円の政党交付金を返還すべきと指摘していますが、立憲民主党も政党交付金の明確な使途を明らかにしていない以上、彼らの声は弱いものになってしまいます。

政党交付金はその使い道に制限がなく、議員数に応じて交付額が決まることから既成の大政党に有利に働きます。高級料亭での会食や観光ホテルの宿泊代に使われるのは当たり前で、選挙ポスターやCM料なども交付金頼みとなっています。前回当選の比率によって割り振られた税金が次回の選挙資金にも充てられるということは、小さな政党にとってはスタート時点で、資金面で大きく出遅れた戦いを強いられることになります。

衆院解散は立場をゼロに戻して各議員・政党が国民に信を問うことですが、解散前に割り振られていた資金を持っての選挙は民主主義の原点からも疑問視せざるを得ません。ましてや恥ずかしげもなく税金が買収資金として使われていたというのだから、もはやこの制度は廃止する以外にないのではないでしょうか。

文責 仙台市で相続税に特化した税理士事務所|栁沼隆 税理士事務所

所長 栁沼  隆

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