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 今年4月、秋篠宮殿下の長女・眞子様の婚約者である小室圭さんが「小室文書」と呼ばれる説明文書を公表しました。肝心の「世間をお騒がせして申し訳ない」の一言もなく、「今後国民の理解を得るためにどう行動するか」の説明もなく、ただひたすら自分の体裁を守る為の言葉が連ねてある内容を目にしますと騒動の落ち着きを期待する国民に失望感を感じさせる内容文書でした。この文書について、税理士の視点から2点気になった点があります。

 1つ目は佳代さんの金銭トラブルが、借金なのか贈与なのか明確にされていない点です。2011年4月から佳代さんとの婚約破棄までのお金のやりとりについて「個々のお金が借金なのか贈与なのかは必ずしも明確ではない」との記載があります。この記載内容からすると贈与が法律行為として成立していないのではないかという点です。

 2つ目は佳代さんの贈与税の申告・納税です。「母は『念のために』と贈与税を申告・納税した」との記載があります。金銭トラブルが世間で騒がれたことが背景ですので、申告納税の時期はおそらく18年か19年だと想定されます。一方、2010年11月から翌年9月までの間に409万3000円のお金が元婚約者から佳代さんに送られています。申告した贈与額にまで触れられていませんが、もしかしたら申告額を間違えているのかもしれません。

 そもそも民法における贈与の成立要件を考えてみましょう。贈与とは「当事者である一方が他方に対して無償で財産を与える行為」です。民法では贈与を一つの契約として定めており、次の3要素が必要としています。

 

  • 諾成契約・・・当事者間で「あげます」「もらいます」と贈与について合意していること
  • 無償契約・・・無償で財産を与えること
  • 片務契約・・・あげる側だけがあげることについて責任を負っていること

 

 贈与は口頭でも成立しますが、もめることが多いので贈与契約書を作成した方が無難です。ただし贈与契約書さえあれば贈与と認められるかというとそうではありません。「財産を相手方にあげた」ということは「相手方が自由に財産を使える状態である」ということです。また、相手方が「もらった」と認識していなくてはなりません。

 よく相続税の話題に「名義預金」の話が出ます。これの何が問題かというと「そもそも贈与が成立していない」点です。「受贈者であるはずの子や孫が自分名義の預金の存在を知らない」「『あげる』といわれたけど印鑑も通帳も贈与者が管理している」のであれば、いくら贈与契約書があっても贈与は不成立です。

 また贈与税の申告書も贈与があったことの証明にはなりません。贈与契約が成立しているかどうかは民法の話です。また民法上の贈与でなくても贈与とみなされて贈与税がかかるものがあります。贈与税は、相続税法の規定に基づき課されているのです。

 民法上の贈与でなくても贈与税がかかる場合には次のようなものがあります。

 

  • 債務の免除・肩代わり
  • かなり低い金額での財産の譲受
  • 生きている人が保険料を負担した生命保険金の受取
  • 無利子の貸付の利子部分
  • 離婚における過度あるいは脱税目的の財産分与

 

逆に民法上の贈与やみなし贈与であっても、次のものには贈与税が課されません。

 

  • 扶養義務者から必要の都度もらう生活費や教育費
  • かなり困窮した状態での債務の免除や肩代わり
  • 社会常識の範囲内でもらうお年玉やお中元・お歳暮、香典、入学や卒業の祝い金

 

以上を踏まえてもう一度小室家間のお金のやりとりを考えてみましょう。

まず「400万円を超えるお金は贈与か借金か」です。はっきり言ってこれは民法上の贈与には該当しません。なぜなら贈与者である元婚約者が「あれは贈与ではなくて貸付だ」と明言しているからです。しかしだからと言って贈与税は全く心配しなくていいわけではありません。

眞子様がお気持ちを文書で公表した後、週刊誌が「元婚約者が『あの借金は返さなくていい』と言っている」と報じました。もしこれが佳代さんに通知されたのなら、債務免除益相当額が贈与とみなされて課税対象となります。債務免除があった段階で400万円を超える借金帳消し相当額に贈与税が発生することになります。

仮に免除がなかったとしても、無利子貸し付けなので利息相当額も贈与税の対象です。ただし超低金利の今の日本で利息そのものを計算しても贈与税の基礎控除額である年間110万円を超えることはないでしょう。そのため申告は不要となります。

次に「いくら贈与税を申告すべきか」です。

すべてにおいて贈与だったなら、400万円超を一度に申告して納税するものではありません。実際の贈与は3年にわたって行われていますので、暦年ごとに申告・納税すべきです。すべて贈与だとしますと、

2010年分の贈与額 45万3000円 基礎控除額に達していないので税額0円

2011年分の贈与額 194万円 納税額 8万4000円

2012年分の贈与額 200万円 納税額 9万円

 

ちなみに債務免除が正式に行われていたのなら、贈与額 439万3000円 納税額66万7900円となります。元婚約者が貸付だと思っていた債権を免除したとしたのなら、納める税額はこちらになります。

なお、小室文書の中で「家族になることを前提にもらったお金」「贈与税の納付の必要もないと母は思っていた」とありますが、生活費や教育費が非課税になるのは民法上の扶養義務者、つまり「配偶者」「3親等内の直系血族」「兄弟姉妹」に限られます。婚約状態での金銭の贈与は課税対象になるのです。また「留学中に『その都度送るのが面倒だから』とまとめて200万円の生活費をもらった」とありますが、これも贈与税の対象です。ちなみに、都度ではなく一括送金だと扶養義務者間の生活費・教育費の贈与でも課税されます。

文責 仙台市で相続税に特化した税理士事務所|栁沼隆 税理士事務所

所長 栁沼  隆

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