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 米マイクロソフト社の共同創業者のビル・ケイツ氏(65)が、妻のメリンダ・ゲイツ氏(56)と離婚することを発表しました。2人の結婚生活は27年に及びますが、両者はツイッターで離婚理由を「夫婦としてこれから共に成長できると思えない」と説明しています。未成年女子人身売買のエプスタインの邸宅に通ってプライベートジェットにも同乗していたとニューヨークタイムズに報じられ、破局を迎えたビル・ゲイツ&メリンダ夫妻。夫婦の砦が崩れると葬り去られたはずの醜聞が次から次へと出てきています。ゲイツ氏は世界的な大富豪で、夫婦の保有資産は推定1300億ドル(約14兆3千億円)といわれています。

 ゲイツ氏とメリンダさんは、離婚を決断するに至った理由を説明する一方、2000年に夫婦で設立した慈善団体であるビル・アンド・メリンダ財団については、「信念を共有し、活動を継続していきます」としています。米紙の報道によれば、2人は約2年前から、複数の法律事務所を介して離婚協議を進めてきたといいます。

 世界的な大富豪の離婚により、注目されているのが巨万の富の行方です。米経済紙フォーブスが発表した2021年度の世界長者番付によりますとゲイツ氏は資産額約14.3兆円で世界第4位に名を連ねています。過去には同番付で18回トップに立ち、1995年~2007年は13年連続、2014年~2017年にも4年連続で世界一でした。今回はビル・ゲイツ氏の不貞などが理由ですが、結果、この離婚が相続税対策にもつながっています。どういうことかというと…仮に財産を等しく分与したとすると、メリンダさんが得る財産分与額は約7兆円となります。この財産分与額には所得税がかかりません。当然、ビル・ゲイツ氏の財産は半額となるので、その分相続税も節税できます。

 実は富裕層が相続税対策として離婚を計画することは昔からよく聞く話です。1987年に公開した映画『マルサの女』では、山崎努演じる会社経営者が内縁の妻について次のように語るシーンがあります。

 「もう少し情が移ってきたら結婚して、本当に愛情がわいて財産を分けたくなったら、離婚するんだよ。離婚して慰謝料をガバーッと払うの。慰謝料には税金がかかんないからね。そうやって財産を移しといて、また彼女と結婚するの」

 これに対して宮本信子演じる主人公が「財産を移したとたんに彼女が逃げちゃう可能性もありますね」と切り返します。

 日本の離婚に対する税制では、離婚に際しての財産分与や慰謝料で得たお金は、所得税法上、非課税となります。ただし、財産分与が非課税というのはあくまで原則で、課税されるケースもありますので注意が必要です。

 財産分与に課税される一つ目のケースは分与した財産が過大である時で、この場合には過大と認定された部分に贈与税が課されます。

 二つ目は分与したのが不動産であるときで、これは分与を受けた側ではなく、分与を行う側に譲渡所得税が課されます。

 そして最後の三つ目が、離婚が税逃れ目的の偽装だと判断された時です。もし離婚が偽装であると認定されてしまうと、分与額への贈与税に加えて無申告加算税なども課され、結局ただ贈与するよりもトータルの税負担がかさんでしまいます。

 では具体的にどのような場合に偽装離婚だと判断されるのでしょうか?税法や通達には明確な基準はありません。しかし、少なくても「離婚届を出しておいて共同生活を続けている」状態では、偽装離婚と判断されても仕方ありません。これに対する対策としては、離婚協議の経過を残しておくのが賢明でしょう。

 このような離婚の他に家族を使った相続税対策としては、「孫養子」があります。自分の孫を養子として「子」にすると、法定相続人が1人増えることになります。相続人が1人増えれば、基礎控除額が600万円増え、同様に生命保険金・死亡退職金の非課税枠が500万円増加します。このすべての非課税枠をフルに活用できれば、縁組だけで課税対象となる相続財産を1600万円まで圧縮できます。さらにそれを増えた後の法定相続人の数で按分するので、一人当たりの取得分が大きく減ることになり、税率もその分下がって、節税になります。なにより孫を「子」にすることにより、子から孫への相続を一回回避できるので、2次相続をトータルで考えるとかなりの税負担を減らすことができます。過去には、ビートたけしさんが、将来の相続を踏まえて養子縁組を行っています。しかし養子縁組は、円満だったはずの相続を〝争族〟に変えてしまうリスクがあります。法定相続人の増加は他の相続人の取り分の減少を意味し、配偶者や親子の間であっても揉める相続で、そこに本来遺産のもらえるはずのない人が増えれば、トラブルの確率は倍以上に跳ね上がると思っていいでしょう。

 2014年に亡くなった俳優の高倉健さんは、晩年に介護をしてくれた33歳年下の知人女性と養子縁組を行いましたが、相談もなく養子縁組がされたという健さんの実の妹と、遺産を受け取った女性の間には、今も全く親交がもたれていません。親族側は健さんの葬儀にも一切参加せず、兄妹の絆は切れたままです。

 養子を使った相続対策は、前もって十分に話し合いを行い、相続に関する全ての人の納得を得ていなければ穏便には終わりません。自分が亡きあとに相続争いで心身をすり減らすのは財産を遺された方です。生きている間にできるだけもめごとの懸念はなくしておきたいものです。

 また孫養子は、税制面で相続税の「2割加算」の対象となることにも注意が必要です。養子となった孫は法定相続人として扱われるものの、相続税法上の一親等にあたらないので相続税額が2割上乗せされます。遺産の額によっては、孫養子で得られる税負担の軽減効果よりも2割加算ルールで課される税負担が上回るということもあり得ますので、必ず税負担がどれだけ変わるかを税理士などに聞いた方が良いでしょう。

 相続税対策は、あくまで配偶者や子、孫のために多くの財産を遺すのが目的です。その対策の結果、家族が分裂したり、関係が悪化したりしては意味がありません。離婚や養子縁組といった掟破りの相続税対策を検討するのでしたら、税負担面でのメリット以外の要素まで考慮するべきでしょう。

文責 仙台市で相続税に特化した税理士事務所|栁沼隆 税理士事務所

所長 栁沼  隆

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