594e018abcfb3f4e0bb227e6a1d11f25_s

 贈与は原則として、贈与者の「無償であげます」という意思表示に対して、受贈者が「もらいます」と応じることで成立する一種の契約のことをいいます。しかし例外として、双方合意の財産の受け渡しでなくても贈与とみなされて贈与税の課税対象となる「みなし贈与」のルールが設けられています。本来の贈与とは異なり当事者双方の合意が不要なため、当事者間で贈与を行ったという認識がないまま気づいたら税金が発生していたということにもなりかねません。

 代表的なみなし贈与として挙げられるのが、生命保険の満期保険金です。保険料を支払う契約者と保険金の受取人が異なっていると、満期保険金や解約返戻金に贈与税がかかることになります。仮に若いころに定期の生命保険に加入し、保険金の受取人として妻の名前を記入しているとすれば、そのまま保険が満期を迎えて、妻が保険金を受け取ると、妻に贈与税が課されてしまいます。

 贈与税の負担を避けるためには、満期を迎える前に受取人を保険料の負担者本人に変更しなければなりません。契約者も受取人も夫の保険なら保険金は夫の一時所得となり、所得税が課されることになりますが、課税対象は特別控除50万円を差し引いた額の1/2に対しての課税となります。基礎控除110万円を除いた全額に課税される贈与税に比べて、実際の税負担を格段に軽くすることができます。

 一方、すでに保険金を受け取ってしまっているのであれば、ここから贈与税の負担を回避するのは難しくなります。現金の贈与であれば、同じ年のうちに現金を返すことで贈与そのものをなかったことにできますが、こと保険金については支払われた時点で贈与が成立しているとみなされてしまいます。現金と同じく、後から保険金を返金して贈与をなかったことにしようとしても、税負担を回避するどころか、贈与が2回あったとみなされて2重に課税されてしまう可能性すらあります。

 ほかに考えられるみなし贈与としては、財産を「著しく低い価額」で譲渡した場合に課税される低額譲渡があります。具体例としては、生前対策として所有する不動産や株式などを子供に低価格で譲渡するような場合です。

 2007年の東京地裁の判決では、価額が「著しく低いかどうか」の判断は、その財産の種類や性質、取引の実情をもとに行うとの基準を示しております。とりわけ土地の譲渡については時価の80%を下回るとみなし贈与と判断される恐れが高くなります。

みなし贈与と認定されてしまいますと、財産の評価を相続税評価額ではなく取引価額で行いますので、相続税であれば特例が適用される土地や建物といった不動産などで優遇を受けられず、事実上割高な税が課されることになります。

また低額譲渡と似た事例として、借入金と一緒に資産の贈与を受ける「負担付贈与」があり、こちらもみなし贈与として贈与税が課されます。譲受した財産と、財産に伴って引き継いだ借金の差額について贈与税が課され、低額譲渡同様、財産の評価額は相続税評価額ではなく取引価額で決められるので重い税負担が課されることになります。

通常の贈与は当事者間の合意に基づき成立することが民法上で定められていますが、みなし贈与に該当するかどうかは法律で定められているわけではなく、過去の判例などをもとに判断されています。

他のケースでは

  • 身内同士で無利息やあまりにも低い利息で金銭を貸し借りした
  • 親が子供に貸したお金の返済を免除した
  • 子供が本来支払うべき税金を親が肩代わりした

などがあり、みなし贈与の〝落とし穴〟はそこかしこにあるといってもいいでしょう。

文責 仙台市で相続税に特化した税理士事務所|栁沼隆 税理士事務所

所長 栁沼  隆

「所長の独り言」一覧はこちら

 

免責
本記事の内容は投稿時点での税法、会計基準、会社法その他の法令に基づき記載しています。また、読者が理解しやすいように厳密ではない解説をしている部分があります。本記事に基づく情報により実務を行う場合には、専門家に相談の上行うか、十分に内容を検討の上実行してください。当事務所との協議により実施した場合を除き、本情報の利用により損害が発生することがあっても、当事務所は一切責任を負いかねます。また、本記事を参考にして訴訟等行為に及んでも当事務所は一切関係がありませんので当事務所の名前等使用なさらぬようお願い申し上げます。