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 菅義偉前政権が発足した2020年9月から退陣までの1年間に支出された内閣官房機密費約13億円の内、官房長官の裁量で使える「政策推進費」が12億円超に上ることがわかりました。昨年末に日本維新の会所属の議員が文通通信交通滞在費の在り方に異議を唱えて以来、国会議員の特権として割り振られる税金について国民の批判が高まっていますが、もうひとつのブラックボックスの存在が再び注目を浴びそうです。

 河井克行元法相・案里元参議院夫婦の広島買収事件では、自民党本部から渡った1億5000万円の原資も政党助成金か官房機密費との疑いが濃くなっており、解明が待たれる状況です。国庫から支出される官房機密費は、内閣官房長官の権限で支出される経費で、政策推進費のほかに活動関係費や調査情報対策費などがあります。

 菅前首相が官房長官だった7年8カ月間の政策推進費の総支出は86億円を超えております。2020年秋に自民党総裁選に立候補した際には、出馬表明前日の9月1日に9020万円の政策推進費を受け取り、首相就任の同月16日までに4820万円を支出しています。派閥回りや地方議員票のとりまとめに奔走していた総裁選のさなかに5千万円近くの支出を必要とする「国政の円滑な運営に必要な事柄」があるわけもなく、どう考えても官房長官だけが自由に使える官房機密費を自分の総裁選に使ったと国民に思われても仕方ありません。

 使途不明かつ不平等な政治家特権の総本山と言えば、政党助成金でしょう。同制度は1990年代の政治改革の中で、企業団体献金を廃止する目的で導入されたものです。生まれたての赤ちゃんを含む国民1人あたり250円の税金を国政選挙での得票数や議席数に応じて割り当てられ、年間で総額320億円、国会議員一人当たり年間4500万円が各政党に配分されています(共産党は受け取り拒否)。

 政党助成金は毎年、その使途を総務省に提出することになっていますが、「政治活動の自由を尊重する」ため、使途は借金の返済や貸付など極めて限定されています。こうしたことから国民に使途が見えにくく、不透明さを指摘する声は多くみられます。広島河井事件のように選挙活動にも使われているとなれば現有議席の多い政党が多額の資金をもって次の選挙戦にも臨むことができ、すべてをリセットして国民の信を問う選挙制度のスタートラインに大きく差がつくことになります。

 2月4日には、参議院に野党サイドから政党助成金の廃止を求める法案が提出されました。多くの政党が運営資金の大半を税金に依存している現状からは、政党助成金が深刻な形で政党の堕落を招いている姿が浮き彫りになっています。いまや収入の8割を政党助成金に頼る自民党は法案に反対するとみられますが、野党第一党の立憲民主党や「身を切る改革」を進める日本維新の会がどう判断するか注目されます。

 そして政党助成金のみならず使途の不明確さが問題視されているのが官房機密費です。国政を円滑に運営する場合に支出するとされていることから「権力の潤滑油」などと呼ばれていますが、支出に当たって領収書も不要で、かつ会計検査院の監査も免除されていることで、不透明な使途に国民から使途の開示を求める声が多く上がっています。

 官房機密費の歴史は古く、最初に計上されたのは1947年に遡ります。敗戦後の混乱期において「表に出せない支出」として登場しました。その支出額は年々増加し、2016年には年14億円を突破するに至っています。あまりの額の多さに市民オンブズマンらが情報開示請求をしたところ全て不開示とされたことから「与党議員のパーティ活動や野党対策、さらには飲食費などに充てられたのではないか」と疑問視されています。

 実際、小渕内閣で官房長官だった野中広務氏は2010年に官房機密費をマスコミ関係者へ配布していたことを明かした中で、ジャーナリストの田原総一朗氏に1000万円を渡そうとして断られたエピソードを残しています。さらに官房機密費は田中角栄政権や中曽根康弘政権でも党内調整などに使われ、税金の私物化とされてきました。

 昨年来、在職日が1日だけであっても一律に100万円が支出される文通費が政治家の歪んだ特権として問題視されていますが、すべての国会議員に与えられる文通費に対して、官房機密費は官房長官たった一人が使途を明らかにせずに自由勝手に使うことができるカネです。文通費の抜本的な改革ももちろんですが、政権与党が自分自身の権力維持のために使われる機密費についてもぜひメスを入れてもらいたいものです。

文責 仙台市で相続税に特化した税理士事務所|栁沼隆 税理士事務所

所長 栁沼  隆

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