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 電子保存の義務化によって、すべての事業者に対して今年以降の電子取引についてその電子情報の書面保存は出来なくなることとされていましたが、急遽2023年末までの2年間の「宥恕」の措置が取られることになりました。気になるのは、宥恕期間における税務調査の対応です。国税庁は宥恕措置を適用するにあたって特別な手続きは必要なく、税務調査時などの際にも詳細な対応状況の説明は求めない方針を明らかにしていますが、状況によっては宥恕措置が認められないこともあるので注意しなければなりません。

 昨年12月24日に閣議決定した2022年度税制改正大綱では、2022年1月施行の改正電子帳簿保孫法に「宥恕期間」が設けられました。改正法ではメールやPDFファイルなど電子形式で受け取った帳簿を紙に印刷して保存することを全面禁止にするとしていましたが、2023年12月31日までの2年間については要件違反とみなされないことになります。企業の申出に応じて「税務署長が判断する」となっており、対応が遅れた企業にとっては一安心といったところでしょうか。

 2022年度大綱では「当該電磁的記録の保存要件への対応が困難な事業者の実情に配意し、引き続き保存義務者から納税地等の所轄税務署長への手続を要せずその出力書面等による保存を可能とするよう運用上適切に配慮することとする」と盛り込まれました。

 改正電子帳簿保存法では、取引先から受け取った電子取引情報(電磁的記録)について、印刷して紙媒体で保存したものは正式な税務書類とみなされなくなります。こうした電子請求書については来年以降の税務調査で、消費税に係るものを除き、データ上で提示できなければ税務書類を保存していなかったとみなされて青色申告取消などの罰則が科されるはずでした。

 しかし2022年度大綱で2年間の猶予期間が設けられることになりました。改正電子帳簿保存法の施行が今年1月1日だったことから、1月17日に開かれる直近の通常国会の召集では法改正が間に合いません。そこでもともと電子帳簿保存法施行規則に規定されていた宥恕規定が活用されました。

 これを規定する電子帳簿保存法施行規則4条3項を以下のように読み替える改正がなされています。

 

3 法第7条に規定する保存義務者が、電子取引を行った場合において、災害その他やむを得ない事情により、同条に規定する財務省令で定めるところに従って当該電子取引の取引情報に係る電磁的記録の保存をすることができなかったことを証明したとき、又は納税地等の所轄税務署長が当該財務省令で定めるところに従って当該電磁記録の保存をすることができなかったことについてやむを得ない事情があると認め、かつ、当該保存義務者が国税に関する法律の規定による当該電磁的記録を出力することにより作成した書面(整然とした形式及び明瞭な状態で出力されたものに限る。)の提示若しくは提出の要求に応じることができるようにしているときは、第1項の規定にかかわらず、当該電磁的記録の保存をすることができる。ただし、これらの事情が生じかなったとした場合において、当該財務省令で定めるところに従って当該電磁的記録の保存をすることができなかったと認められるときは、この限りではない。

 

 改正された規則規定で宥恕措置が認められる「やむを得ない事情」について、昨年末に出された財務省資料では「税務調査があった場合には、税務職員に対して『社内のワークフロー整備が間に合わなかった』や『現段階では未整備だが今後保存に係るシステムを整備する意向はある』など、その事情を口頭で回答する」と記しています。だがどれほど納税者の事情を税務調査時に考慮するかは定かではありません。また法律上はそうしたやむを得ない事情について税務署への事前申請等の手続は不要とし、柔軟な対応を認めています。

 国税庁は「電子取引の取引情報に係る電磁的記録の保存を要件に従って行うことができなかったことについてやむを得ない事情があると認められ、かつ、その電磁的記録を出力することにより作成した書面(整然とした形式及び明瞭な状態で出力されたものに限る)の提示又は提出の要求に応じることができる場合には、その出力書面等の保存をもってその電磁的記録の保存を行っているものとして取り扱って差し支えない」(電子帳簿保存法取扱通達7-11)としています。

 気になるのは、2年間の猶予期間が税務調査時に認められるのかどうかです。

 電子帳簿保存法取扱通達解説では、「税務調査の際に、その電磁的記録を出力することにより作成した書面の提示又は提出の要求に応じることができるようにしているときは、その出力書面の保存をもってその電磁的記録の保存をしているものとして取り扱って差し支えないこととし、もって、適法に保存義務を果たしていることとなる」と説明しています。

 また、国税庁のQ&Aでは、「税務調査等の際に、税務職員から確認等があった場合には、各事業者における対応状況や今後の見通しなどを、具体的ではなくても結構ですので適宜お知らせ頂ければ差し支えありません」としており、来年12月31日までは紙での保存を認めています。

 ただ、税務調査で求められたときにデータを「整然とした形式および明瞭な状態」で提示することが条件となっています。電子帳簿保存法取扱通達は、「書面により作成される場合の帳簿書類に準じた規則性を有する形式で出力され、かつ、出力される文字を容易に識別することができる状態をいう」としており、その書面を税務調査の際に当該職員の提示提出要求に応じることが求められます。

 「電子化に未対応なために調査に協力できない」といった対応をしますと、宥恕措置が認められないケースがあることも想定しておかなければなりません。

 また国税庁は「2024年1月以後に行う電子取引の取引情報についても保存要件に従って電子データの保存を行わないことを明らかにしている場合」には、宥恕措置は適用されませんので注意してください。

文責 仙台市で相続税に特化した税理士事務所|栁沼隆 税理士事務所

所長 栁沼  隆

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