第1182話 預金凍結リスク
相続トラブルの原因のうち、意外に見落とされがちなのが故人の「預金凍結」です。相続発生直後に預金凍結リスクをケアできなければ、他の相続トラブルの種になりかねません。
銀行は、預金の名義人が亡くなると即座に口座を凍結し、預金引出などをできなくします。相続人の誰かが自由に引出してしまうと相続トラブルの種になってしまいますので、銀行としてはトラブルに巻き込まれるのを防ぐため、遺言があるか、なければ遺産分割協議が決着するまでは、一切の取引を停止します。
一度預金が凍結されると、たとえ通帳やキャッシュカードがあって暗証番号がわかっていたとしても、凍結解除の手続きをしない限り、口座から現金を引き落とすことは原則できません。
例外として「預金額の1/3×法定相続分の割合」または「1500万円」のいずれか低い額を上限に、他の相続人の同意を得ずに引き出せる仮払制度はあります。ですがこの制度はあくまでも当座の生活費や葬式費用に充てることが目的です。
預金口座が凍結されている間、遺族にはさまざまなリスクが生じます。当座の必要資金が引き出せなくなるからです。仮払制度のおかげで、当面の生活費程度なら賄えるかもしれませんが、亡くなられた方が個人事業主で、個人口座から事業資金を捻出していたような場合には、ただちに経営存続のリスクに直面します。
また税金や公共料金、クレジットカードなどを口座からの自動引落に設定していると、それらの支払もすべてストップして翌月にも〝未納〟の状態になってしまいます。
さらに預金口座が凍結されますと、振込もできなくなります。例えば賃貸アパートを保有し、その家賃の振込先を個人口座にしていると、口座凍結により家賃収入が入ってこなくなります。
そもそも銀行預金口座を凍結するタイミングはいつになるのでしょうか。それは「相続の発生を銀行が知ったとき」です。役所に死亡届出を提出すると、その情報により銀行が預金を凍結すると勘違いされている方もおられますが、役所から個人情報を金融機関に漏らすことはありえません。実際には「相続人自身による連絡」がほとんどです。
相続手続のために銀行を訪れた際に、銀行は相続の発生を知り、口座を凍結します。例えば、相続発生後の手続きを知りたくて預金口座の取り扱いを尋ねたら、銀行は直ちに口座を凍結します。他には、地元紙の訃報欄や人づての連絡などがありますが、ほとんどが「相続人からの連絡」です。
運よく口座が凍結されていなくても、いったん相続財産となった預金を引き出して使うと、原則として相続放棄を利用できなくなる別のリスクが生じます。
重要なのは、当座の生活費や事業用資金に困らないよう口座を分けるなどの事前対策をしつつ、預金凍結から解除までの手続きをスムーズに行うことです。
また解除するためには、遺言があれば簡単に終わりますが、なければ早期に遺産分割協議をまとめることが必要になります。
文責 仙台市で相続税に特化した税理士事務所|栁沼隆 税理士事務所
所長 栁沼 隆
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