去年の12月2日に「第42話 養子縁組の相続税対策」で相続税の節税目的での養子縁組の有効性が最高裁判所にて争われている事例をご紹介いたしましたが、その判決が、今年の1月31日に第3小法廷にて予想通り「節税目的の養子縁組であっても、ただちに無効になるとは言えない」との初めての判断が示されました。今回の事件を少しおさらいしてみましょう。
2013年に死亡した福島県の男性(当時82歳)は、その前年に当時1歳だった孫(長男の息子)を養子にしました。その男性の死亡後、遺産をめぐる男性の長女と次女がこの養子縁組の無効を求め長男側を提訴しました。
男性は、2010年3月に福島県や東京都に所有していた不動産を妻と長男に、金融資産を二人の娘に相続させるため、自筆遺言証書を作成しました。
2012年3月には男性の妻が死亡しますが、この時に長男と共に訪れた税理士から長男の息子を男性の養子にすることで節税メリットがあると説明を受けます。そして男性は税理士の面前で養子縁組届に署名押印したとされています。その後、男性と長男の関係が悪化します。男性は2,012年10月に養子縁組は長男の勝手な判断によるもので養子縁組の詳しい説明を受けたことも、縁組に署名捺印した事実もなく、自分の年齢から考えて、養育できる時間もないとし、孫との養子離縁届を提出しました。男性と長男は離縁届をめぐって生前から訴訟にまで発展していたようです。この訴訟は男性が死亡するまで続きました。そして男性の死後は、養子縁組をめぐって姉二人が無効を求める裁判が新たに始まったわけです。
争点になった点は、男性に養子縁組の意思があったかどうかです。民法802条によると「当事者間に縁組をする意思がないとき」は縁組を無効にできると定められています。したがって節税目的で養子縁組をするとしても、本当に親子になる意思があったかどうかが問われました。
一審の東京家庭裁判所では、男性が養子縁組の書類に自ら署名をしていることなどから、養子縁組は有効であると判断しました。しかし二審の東京高裁では、長男が税理士を連れて節税メリットを説いたことから「男性に孫と親子関係を創設する意思がなかった」として養子縁組は無効であると判断しております。
そして最高裁にまで上告されるのですが、それについては次回にご説明します。