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 税務申告書を期限後に申告すると加算税が課されてしまうため、余計な税負担を増やさぬよう期限内の申告が鉄則になります。しかし、せっかく期限内に申告しても、国税当局に不備を指摘されると加算税の対象になってしまいます。

 今回は、相続税の申告書を期限内に申告したのにかかわらず、押印に不備があることで提出した申告書を無効とされ、加算税が課されたことについて、国税当局と争った裁決事例をご紹介します。

 父親の死亡で相続が発生したA家では、相続人である母親、長女、長男、次男の5人が週に1回集まり、遺産分割協議をしました。協議中は大きな問題はなくスムーズに進み、成立後、長女が代表者として期限内に共同申告書を提出しました。しかし、その申告書が無効であるとして国税当局に指摘されてしまいます。

 その理由として、申告書の「財産を取得した人」の欄に、次女以外の押印がなかったためです。なお、次女は、郵便局で定期貯金の相続手続きをするときに、郵便局職員から求められて申告書に押印していました。その意味を理解しないままハンコを押したため、A家の他の相続人には伝えていませんでした。

 相続税の申告は、身内の不幸で精神的なダメージを受けている中で10カ月という期限を突然突きつけられ、なれない申告をしなければならない大変な作業です。申告期限ぎりぎりになってしまうことも多くあります。

 A家も国税当局の指摘を受け、押印後に申告書を再提出したものの、相続申告期限の10カ月を過ぎた時点だったために、期限後申告に伴う無申告加算税処分を科されました。

 A家は、最初に提出した申告書は有効であり、期限内に提出したのだから加算税の対象にはならないとして、審判所に駆け込みました。なお、押印がされていなかった点を除き、必要記載事項はすべて申告書に記載されていました。

 国税通則法第124条では、申告書には氏名を記載して押印しなければならないと規定されています。国税当局はこの条文に基づき、A家の申告書はその要件を満たしていないと主張しました。また、申告書が相続人の意思に基づいて提出されたものと判断することはできないとして、最初に提出された申告書は無効であることを訴え続けました。

 これに対して審判所は、国税通則法第124条の要件を満たしていないものの、「単なる押印漏れ」であり、申告書としてほかの要件を満たしている限り、形式的に判断するべきではないと断じました。そして、申告書の作成経緯や税務署への提出状況、納税状況を総合的に考慮すると、A家の最初の申告書は有効であるとして、加算税の決定処分は取り消すべきだとしました。

 

文責 仙台市で相続税に特化した税理士事務所|栁沼隆 税理士事務所

所長 栁沼  隆

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