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 「ところで奥様、過去に働かれていたことはありますか?」

 「いえ、ずっと専業主婦です。」

 「おかしいですね。どうしてこんなに預金に残高があるのでしょうか?これは実は亡くなったご主人の収入ですよね。贈与の証拠がなければ、相続税の対象になります。」

 これは非常によくある相続税の税務調査のやりとりの一部です。亡くなった夫としては生前に妻に財産を渡したつもりだったのが、妻が贈与を証明しなければ贈与は成立せず、相続財産として相続税が課されてしまいます。

   2017事業年度に贈与税の税務調査は3809件実施され、なんとそのうち93.6%が何らかの申告漏れなどを指摘されています。

   贈与の大原則は、「ただであげましょう。」「ただでもらいます。」という双方の合意の認識があることです。例えば孫名義の通帳を管理していて自分名義の通帳からお金を移し替えるだけで贈与をしたと考える人がいますが、それは違います。もらった側がその事実の認識がないままで贈与は成立しません。

   贈与をするなら

  1. その事実をきちんと相手に伝えること
  2. もらった人に財産が実際に渡って、もらった人自身によってその財産が管理されていること

という事実が必要になります。

 合意の確認は書面でしなくても口頭でも構いませんが、税務調査の段階で証明できる自信がなければ、契約書などの書面にして自署押印しておけばよろしいでしょう。さらに公証人役場で確定日付を打ってもらえば、その日に契約書が存在したことを証明できます。

 また、モノの実際の引き渡しなくして贈与は成立しません。現金や預金なら、あげる人の通帳からもらう人の管理している通帳へ振り込まれていれば贈与の証明となります。しかし不動産を贈与するなら、登記などの名義変更手続きを絶対に忘れてはいけません。

 年間110万円を超える贈与は贈与税の納税が必要となりますので、あえて贈与の証明として111万円の贈与をする人もみかけますが、申告をしたからと言って必ず贈与を免れることができるとは限りません。贈与が成立したという事実があり、証明書類を整えておけば心配することはないでしょう。

 ちなみに「毎年110万円を10年にわたって贈与する」というような契約は、それ自体が一つの贈与契約である「連年贈与」と認定されやすく贈与税が課されてしまいます。この連年贈与対策として、毎年111万円を贈与して申告しておけば税務署に否認されることはないとの「裏ワザ」がまことしやかに語られることがありますが、大半の税理士が意味のないことだと考えています。なかにはそのような小細工をすればかえって疑念を抱くと考える方が自然です。

 相続税対策としての贈与は、専門家に依頼する方が賢明でしょう。

 

文責 仙台市で相続税に特化した税理士事務所|栁沼隆 税理士事務所

所長 栁沼  隆

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