第735話 国税局査察部(マルサ)その4
内偵調査の手がかりを端緒と呼びます。繁華街をふらついて流行っている店を見つけたり、国税局に寄せられる脱税情報だったり、テレビや雑誌の繁盛店紹介だったり、国税の内部資料から架空取引が浮かび上がることもあります。
しかし脱税情報にはガセネタが多く、架空取引には粉飾決算やキックバックも多くみられます。また影のオーナーが利益を吸い上げていることもあり、本当に脱税者なのかどうかは、踏み込んでみなければわかりません。
一方、脱税で貯めこんでいる金をタマリと呼びます。いわゆる裏金のことで、タマリを見つけることで真の脱税者の証拠材料となります。どんな手段で脱税をしても、果実の不正資金がどこかに貯まります。仮名や借名の預金だったり、金塊だったりしますが、一時期は外国へ資産を逃す「資産フライト」が流行って、多くの金がタックスヘイブンに流れました。近頃は国税にばれにくいとされる仮想通貨も増えて、国税が躍起となって解明しています。
もし、脱税の端緒を発見しても帳簿を見なければ推定の域を出ません。よって裏付けとなるタマリを探すために長期間の張り込みをすることになります。ここでばれてしまうと脱税の重要物証であるタマリを疎開されてしまいますので、慎重に事を進めなければなりません。
映画やドラマでは、隠し部屋やプールの底に沈めた金塊を探し出すシーンが描かれていますが、実際にはもっと現実的な場所に隠されています。金融商品は足が付きやすいので、発覚を恐れて現金で隠すことが一番多くみられます。金塊は、2012年に導入された金地金の支払調書制度(売却額が200万円を超えると税務署に把握される)により、小さなサイズのゴールドバーが主流となりました。
宝石類や絵画の裏取引もあります。絵画や宝石を裏金で買えば、購入者は裏金を資産に変えることができ、売り手側は裏金で取引した売上を除外することができるため、需要と供給が合致しています。
隠し場所は最も安全な保管場所は貸金庫でしょう。盗難や火災の心配がなく、税務署に突然踏み込まれても、鍵さえ見つからなければバレることはありません。実際にあったタマリの隠し場所を紹介してみましょう。
①高級クラブの貸金庫
ターゲットは高級クラブのママさん。張り込みによって貸金庫を見つけたのですが、さらに調査を続けると、この銀行に7つもの貸金庫を借りていて、2年前から3カ月ごとに借り増ししています。相手は水商売なので貸金庫の中身は現金と睨みましたが証拠がありません。強制調査をすべきか否か。検討する会議に用意したのが段ボールで作った実物大の貸金庫の模型と新聞紙で作った100万円の束。一つの貸金庫に3千万円の現金が詰め込めることがわかりました。7つの貸金庫があるので脱税額は2億1千万円と予想します。果たして結果は、予想通り7つの貸金庫にそれぞれ3千万円、合計2億1千万円の現金がぎっしり詰まっていました。
②家電訪問販売会社
美術品のレンタル倉庫に現金を隠していたケースです。強制調査でレンタル倉庫のキーを発見しましたが、場所は遠く離れた博多。タマリが隠されている可能性がある場所は、その日のうちに確認しなければなりません。
このような場合は、急いで博多を管轄する福岡地裁で追加の強制令状を取って踏み込むことになります。
令状を取り部屋を開けさせると、段ボール箱が10箱、積み上げられていました。1箱に1億円、総額10億円の現金です。数えきれないので、銀行にそのまま預金して通帳を差し押さえる方法を取るほどの現金でした。
③100億円の現金
地下倉庫に100億円の現金が隠されていたケースです。地下室に作られたフィットネスルームのロッカーに無造作に100億円の現金が入っていました。その多くは聖徳太子の1万円札。
聖徳太子の1万円札は1986年に支払い停止になり、84年からは福沢諭吉の1万円札が流通しています。踏み込んだのは、2005年。租税時効7年のため、貯めこんだ時期が98年より前ですので時効成立により無罪放免となりました。
脱税があれば必ずどこかにタマリがあります。よってタマリが見つからなければ推定の域を出ないことになり、強制調査の許可が下りません。脱税の果実を誰かがキックバックなどの方法で吸い上げている可能性もあり、真の帰属者が見つかるまで張り込みは続けることになります。
文責 仙台市で相続税に特化した税理士事務所|栁沼隆 税理士事務所
所長 栁沼 隆
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