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建物の賃貸借契約書には通常、敷金あるいは補償金に関する記載があります。敷金の受け渡しがあった場合、借り手が建物から退去するときに貸し手が建物の補修などの原状回復を行い、その費用を敷金から控除したうえで借り手に返還します。

 建物を退去した時の原状回復費用がゼロということはありえないので、建物を貸借するときに渡した敷金が満額戻ってくるということは、基本的にありえません。敷金返還額がゼロということも珍しくありません。

 ところで、借り手が貸し手に敷金を渡したままの状態で、借り手に相続が発生した場合には、敷金の評価額はどのように計算されるのでしょうか?つまりは相続税申告時の財産評価にあたって、敷金は差し入れている金額そのままで評価されるのか、それとも原状回復費用を控除した金額で評価されるのか、どちらでしょうか?

 事例を通して考えてみましょう。

①Aさんは建物を賃貸して、貸し手に8千万円の敷金を支払いました。

②Aさんは建物の賃借中に死亡しました。

③Aさんの相続人が、Aさんの死亡時において原状回復費用がいくらになるかを専門家に見積もらせたところ、約1億円になる事が判明しました。

④そこでAさんの相続人は、その敷金は1円も返還される見込みはないとして、相続税の計算において敷金をゼロとして評価しました。

 

 これについては、現行の税務上の取扱いは次のようになっています。

 

 敷金は、一般的に利子はつかないので、敷金そのものの金額で評価する。

 

 それでは、原状回復費用については、相続税の計算上、債務控除はできるのでしょうか?債務控除できるのであれば、Aさんの相続では相続人が敷金をゼロ評価しましたが、現行の税務上の扱いで敷金が8千万円で評価されたとしても、1億円の債務控除が認められるのなら、敷金のゼロ円評価以上の効果が得られるはずです。

 しかし現行の税務上の取扱いでは、原状回復費用の債務控除は認められていません。債務控除の対象となる債務は、被相続人の債務で相続開始時に存在するものに限られているからです。つまり原状回復費用は、被相続人の債務ではなく、相続開始後に発生する債務とみなされるからです。

 結局のところ、敷金は8千万円で評価される一方、原状回復費用の債務控除は認められないので、敷金は8千万円として相続財産に取り込まれることになります。

 ここまで見てきたように、たとえ将来は確実に原状回復のために修繕をするとしても、現実に行っていない修繕の費用は債務として成立しておらず、債務控除の対象にはなりません。しかしここではAさんの相続人の考えは、敷金それ自体の評価の問題として考えているので、敷金自体の評価の問題としてとらえる必要があります。

 財産評価基本通達では、貸付金債権などの評価については、「債権金額の全部又は一部が、課税時期においてその回収が不可能又は著しく困難であると見込まれるとき」は、その金額を元本の額に算入しないことになっています。このことから、敷金の回収可能性を踏まえて検討しますと、敷金の0円評価が可能のように思えます。

 敷金の回収可能性がないことを主張すれば、敷金の0円評価が可能だとすれば、確実に敷金をゼロ評価するためには、契約方法を変えればよいことになります。

 建物の賃貸借契約書の中には、敷金の償却(敷引き)を定めているものがあります。

 敷引きというのは、賃貸借契約の締結後、例えば1年経過後に10%、2年経過後に20%、3年経過後に30%、以下年ごとに10%償却するというものです。

 このケースで、10年経過後に賃貸借契約を解除したら、敷金は賃貸借契約の締結時に差し入れた金額の全額が償却されて1円も返却されないことになります。

 この敷引きの条項を契約書に賃貸借契約書に設けておけば、現実に敷金が返還されないことが契約書に明文化されているので、国税当局としても敷金の0円評価に異存はないはずです。

 しかし貸し手にとっては、敷引きは問題の残る制度と言えます。理由は2つで一つは、原状回復費用は必ずしも経過年数に比例して発生するものではなく、先ほどの例でいえば10年経過しなくても原状回復費用が敷金を上回る可能性があるということです。また敷金を事前に預かることは、借り手に「過度に建物を損傷させた場合には、敷金という預り金を没収します」というペナルティーを明示することによって、借り手が過度に建物を損傷させることを防止するという狙いがあるにもかかわらず、償却する割合があらかじめ定められていたのでは、その効果が期待できなくなります。そのため現実には敷引きという制度を採用しているケースは少なく、税務上のトラブルが生じているわけです。

文責 仙台市で相続税に特化した税理士事務所|栁沼隆 税理士事務所

所長 栁沼  隆

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