第1100話 遺留分と相続税

相続人の間での争いを避けるため、生前から遺言書を書いておくべきことは、1093話で書いてある通りです。ただ、遺言書を書く際には遺留分についてよく考慮しておかなければなりません。遺留分は兄弟姉妹以外の法定相続人に認められる相続財産に対する最低限の権利のことを意味します。このため、他の相続人の遺留分を侵害して特定の相続人だけに財産を遺すと、遺産を相続した相続人に対して、その他の相続人から遺留分に当たるお金を分配するように請求されることも珍しくありません。
円滑な相続のために、遺留分は必ず考慮すべきものです。このことについては、相続税についても遺留分は往々にして問題になります。相続開始後、遺言書によって財産を取得することを指定された相続人があれば、遺留分を侵害された相続人から請求されることになるため、あらためて遺産分配が必要になります。
相続税の計算上、この遺留分が問題になる点は大きく2つあります。まず、相続税は相続財産を取得する者に課税されるため、遺留分の請求が行われますと、納税者や課税される財産の金額が変動することです。遺留分は、当初の相続財産を取得した相続人に対して請求されますので、その請求後にお金を支払いますと、支払者は相続財産が減り、請求した者は増えることになります。このため、当初相続財産を取得するとされた相続人が相続税の申告をした後、仮に遺留分の請求により相続財産が増減すれば、当初の申告内容と相続財産が異なることになり、更正の請求などで調整を行う必要が出てきます。
次に遺留分の請求によりお金をもらった場合、相続税は課税されるものの、この場合「相続によって財産を取得」したといえるのかが問題となります。相続税では「相続によって財産を取得」した場合に限り適用される特例があります。遺留分は「遺言者によって相続財産を取得」した者に対して請求されるものですので、被相続人から「相続によって財産を取得」したわけではありません。このため。遺留分を請求した者に対して「相続によって財産を取得」した場合の特例が使えるのか疑問が残ります。
遺留分の請求をした者に相続税が課税されるのであれば、当然にこれらの特例も使えるようにしないとフェアではありませんので、一般的には「相続によって財産を取得」したとして、特例は使えると解説されています。しかし使えるならその旨を法律等で明記してもらわないと課税されるリスクが残ります。相続税法は昭和25年にできた法律のため、時代に即していない表現がなされている部分が多くあります。民法も改正された昨今、全体的な内容を見直す必要があるのではないでしょうか。
文責 仙台市で相続税に特化した税理士事務所|栁沼隆 税理士事務所
所長 栁沼 隆
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