第1113話 紀州のドンファンから学ぶ正しい遺言の残し方
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和歌山県田辺市の資産家で“紀州のドンファン”とも呼ばれた会社社長を殺害したとして、殺人などの罪に問われている28歳の元妻の初公判が、和歌山地方裁判所で開かれ、元妻は「私は社長を殺していないし、覚醒剤を摂取させていません」と述べて、無罪を主張しました。そもそも資産家であるとともに派手な女性関係でも知られる「紀州のドンファン」こと野崎幸助さんが亡くなったのは2018年のこと。死因が急性覚せい剤中毒だったことから、死の真相を巡りワイドショーなどでも取り上げられ、本人の思いを残した遺言書の真贋を巡っても法廷劇にまで発展しました。
本人の死亡から1年以上が経過してから発見された遺言書には、手書きの赤い文字でこう記されていました。
「いごん
個人の全財産を田辺市にキフする
野崎幸助」
この遺言書が「怪しい」というのが親族らの主張です。遺言書はコピー用紙1枚に赤ペンで手書きされ、また発見された状況も不自然であることから「熟慮の末に作成されたとは考えにくく、本人以外が作成に関与した」として、親族らは遺言の全面無効を求めました。
和歌山地裁が下した判決では「遺言は本人の手によるものであり、内容は有効」と認めました。
親族らの主張では、遺言書に書かれた野崎さんの「野」の文字と、別の資料の同じ文字では形に違いが見られるとしていましたが、判決では「筆跡の鑑定書などから筆跡には筆の癖など個人の変動は大きいものの、野崎さん固有の筆跡、資料に恒常的に表れている筆の癖などが認められることから、遺言書と対照資料と同一人物であると結論付けていて、野崎さんの筆跡とみて相違ない」としました。さらに野崎さんが生前にも田辺市に対して1千万円を超える寄付を行い、それを継続する意向を示していたことから「十数億円の資産全てを地元の田辺市に遺贈するという内容と遺言は矛盾しない」として、親族らの訴えを退ける判決を言い渡しました。
遺言に法的効力を持たせるためのルールは民法で定められていますが、筆記用具や用紙に関する規定は存在しません。コピー用紙1枚に赤ペンで書かれていたとしても、メモ用紙に鉛筆書きしたものであっても、それ自体が遺言を無効とする理由にはなりません。
ただ実際に野崎さんのような訴えが起きている以上、遺言を残す側としては財産の内容に見合った、ある程度の体裁を整えるのも大事でしょう。
遺言の代表的なものには「公正証書遺言」と「自筆証書遺言」の2種類がありますが、法的要件を満たすという点で信頼が置けるのは「公正証書遺言」です。公証役場で公証人の立会いのもと、アドバイスを受けながら作成するので、確実に法的要件を満たすことができます。
また民法では遺言書を日本語に限定する規定はなく、外国語で書かれても構いませんが、その翻訳に当たっては、本人の意思に沿わぬ解釈がされる可能性も否定できません。その点、公正証書遺言なら通訳が立ち会って内容を日本語に訳し、本人の同意を得て日本語で文書を残すので、誤解の余地がありません。
一方の「自筆証書遺言」は、自分一人で場所を選ばず費用もかからない点が魅力です。さらに近年の法改正により、財産目録についてはパソコンで作成できるようになり、作成のハードルも下がっています。
ただし、法的効力を発揮するためには最低限、①作成日付、②署名と押印、③本文が自筆、が絶対必要です。また不動産については地番や地籍が正しく記載されている必要があります。
自筆証書遺言で非常によくあるミスが「日付を忘れる」というパターンで、遺言書を書き上げ、時間をおいて内容を点検してから最後に日付を入れようとしたまま忘れてしまうケースが後を絶ちません。
修正の手順ミスもよくあります。修正方法は以下の通り。
まず、訂正箇所に二重線を引きます。修正テープやペンで塗り潰さないようにしましょう。これは、加入や削除の場合も同様です。次に、正しい文言を、横書きの場合は訂正箇所の上部に、縦書きの場合はその横に書きます。そして、訂正印を二重線の近くに押します。文字に重ねて押してもいいですが、元の文字は見えるようにしましょう。なお、訂正印は署名の横で押したものと同一の印鑑を用いましょう。最後に、遺言書の末尾、あるいは訂正箇所の近くに訂正した内容を書き、署名します(例:3行目の「普通」を「定期」に訂正した。相続太郎)。
なお自筆証書遺言については、法務局で遺言書を保管する制度もあります。1通につき3,900円で、本人が作成した自筆証書遺言の原本とデータを法務局が半永久的に保管するものです。
残した家族に恨まれないようにするためにも、せっかく書いた遺言が要件を満たさず無効になるのは避けたいところです。
文責 仙台市で相続税に特化した税理士事務所|栁沼隆 税理士事務所
所長 栁沼 隆
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