182c1ebcf18d2dc6775a14fca2d78bc7_s

 相続放棄をする人が右肩上がりで増えてきています。自分の住所から遠方の土地や空き家を引き継ぐケースが増えてきていることが原因のようです。

 相続財産が不動産や預貯金などプラスの財産ばかりならよいのですが、銀行からの借入金などマイナスの財産もある場合、そう簡単に相続するとも言えなくなります。プラスの財産と巨額の負債を一緒に相続したことで、借金取りに追われる日々となってしまう可能性も否定できません。

 そんな場合に使えるのが、「相続放棄」という選択肢です。

 相続が発生した場合、相続人には以下の3つの選択肢が与えられます。相続人が被相続人の全ての財産を受け継ぐ単純承認。相続人が被相続人の権利や義務を一切受け継がない相続放棄。被相続人の債務がどの程度あるか不明であり、財産が残る可能性もある場合などに、相続人が相続によって得た財産の限度で被相続人の債務の負担を受け継ぐ限定承認。

 最近の司法統計によりますと、2023年の相続放棄の受理件数は28万2785件で、前年から1割増え、過去最高を記録しました。近年、相続放棄の件数は右肩上がりに増え続けています。その原因としては、地方の空き家や土地といった活用の見込みのない資産が増え続けていることなどが挙げられます。

 相続放棄は、相続開始を知った時点から3カ月以内に家庭裁判所に「相続放棄申述書」を提出することで完了します。ただし、なかなか相続財産の全体像が把握できない場合には、家庭裁判所に申し立てて、期間を延長してもらうこともできます。

 相続放棄が受理されますと、その人には最初から相続人ではなかったものとみなされ、その子供や孫にも相続権は承継されません。注意したいのは、残った相続人による相続税の計算です。

 まず相続税の基礎控除額の計算式「3千万円+600万円×法定相続人の数」には、相続放棄した人も含まれて計算されます。

 また、相続放棄をしたとしても自分が受取人になっている生命保険金は、受け取ることができます。これは、生命保険金は民法上の相続財産ではなく、受取人固有の財産とされているためです。相続税法では、受取人固有の財産である生命保険金を「みなし相続財産」として相続税の課税対象に含めており、相続放棄した人が生命保険金を受け取った場合にも、遺贈により生命保険金を受け取ったものとして相続税が課されます。注意したいのは、みなし相続財産である生命保険金の非課税枠なのですが、これは「500万円×法定相続人の数」で計算されるのですが、この法定相続人の数にも、相続放棄した人が含まれますので、非課税枠自体は減ることはありません。

 しかし非課税枠を利用できるのは、あくまで相続放棄をしていない人だけですので、相続放棄をした人は、受け取った保険金の全額が相続税の課税対象となってしまいます。

文責 仙台市で相続税に特化した税理士事務所|栁沼隆 税理士事務所

所長 栁沼  隆

「所長の独り言」一覧はこちら

 

免責
本記事の内容は投稿時点での税法、会計基準、会社法その他の法令に基づき記載しています。また、読者が理解しやすいように厳密ではない解説をしている部分があります。本記事に基づく情報により実務を行う場合には、専門家に相談の上行うか、十分に内容を検討の上実行してください。当事務所との協議により実施した場合を除き、本情報の利用により損害が発生することがあっても、当事務所は一切責任を負いかねます。また、本記事を参考にして訴訟等行為に及んでも当事務所は一切関係がありませんので当事務所の名前等使用なさらぬようお願い申し上げます。