第1158話 暗号資産(1)

2008年にビットコインが誕生して以来、暗号資産は新時代の資産として市民権を得てきました。現在は多くの人が暗号資産取引を行っています。この暗号資産は、換金による〝利益確定〟をしなくても課税対象になってしまうパターンが多く存在しますので、非常に申告漏れが起きやすくなっています。さらに税率は一般的な金融商品の20%を大きく上回り最大55%にも達するため、多額の追徴課税を受けるリスクが存在します。
暗号資産は、ドルや円などの法定通貨と異なり、国家による価値保証がされていない電子マネー全般を指します。しかしアメリカでは、暗号資産業界はバイデン政権下で厳しい規制に直面した後、トランプが選挙戦に公約した「アメリカを暗号資産の中心とする」という取り組みを、大統領令に署名しながら着実に実行に移しています。
この暗号資産は、インターネット上の取引所を通じて購入・売却が可能で、一部の店舗やウェブサイトでは支払に充てることも可能です。代表的な暗号資産としては、ビットコインやイーサリアム、リップルなどが挙げられます。短期間に大きく値動きするため〝一攫千金〟もあり得るとして人気を集め、日本暗号資産取引業協会によりますと取引口座数は今年に入り1200万口座を突破しています。
仮想空間で多額の金が動くようになったことで、監視を強めているのが国税当局です。2017年に「取引で得た利益は原則として所得税法上の雑所得にあたる」と発表。2019年には暗号資産をはじめとするインターネット上の資産取引を専門とする「プロジェクトチーム」を全国の国税局に設置して取り締まり体制を強化しています。さらに2020年には国税通則法の改正により国内の取引所から顧客の氏名や住所、取引情報の照会を可能としています。
暗号資産の取引にあたっては、申告漏れが起きやすくなっています。その背景にあるのは、株式や投資信託といった一般的な金融商品とは異なる暗号資産ならではの税制です。決定的な違いは大きく分けて2つあります。
1つ目の違いは、税金の発生するタイミングです。一般的な金融商品であれば、売却・償還時や配当・利息の受け取り時など原則として利益が確定した時点で税金が発生します。対して暗号資産では、以下のように税金の発生するタイミングが多岐にわたります。
①売却 … 取引所を通じて暗号資産を売却
②暗号資産同士の交換 … 保有している暗号資産から別の暗号資産に乗り換え
③暗号資産による物品の購入 … ECサイトや店舗などでの暗号資産による決済
④マイニング … 暗号資産の取引に必要なコンピューター演算作業に協力し、報酬としての暗号資産を受け取る
⑤ステーキング … 特定の暗号資産を保有した期間や数量に応じての対価の受け取り
⑥レンティング … 暗号資産を取引所に預け入れて利息や手数料を受け取ること
特徴的なのは、②です。暗号資産は、他の暗号資産に乗り換えできますが(ビットコインをイ―サムに変更するなど)、換金していないため税金は発生しないと思われがちですが、国税当局は「いったん売却して日本円に引き換えた」として①の売却同様に税金が発生するとしています。
同様に③についても、暗号資産は一部の店舗やウェブサービスで支払いに充てられますが、「いったん売却して日本円に引き換えた」ことになり、税金が発生します。
また他の金融資産にはない④や⑤で受け取ったものについては時価で課税され、⑥で得た利息や手数料にも納税義務が生じます。いずれも原則として雑所得で申告しなければなりません。
一般的な金融商品との2つ目の大きな違いは、確定申告です。一般的な金融資産であれば、金融機関に納税額を源泉徴収してもらうことで申告を不要にできます。
一方、暗号資産では原則として自分自身で確定申告しなければなりません。申告を怠れば、無申告扱いになります。
さらに暗号資産の税制は、いまだに整備途上にあります。2023年1月に、スマートフォン向けゲーム「ゲームファイト」上で手に入れた暗号資産について、獲得した時点で課税対象とすると定められました。ほかにも、ゲーム上のキャラクターやアイテムの売買で暗号資産の利益が発生したら譲渡所得か雑所得、臨時・偶発的に50万円超に相当するキャラクターを獲得したら一時所得、サービス上の役務の提供で暗号資産を得たら事業所得や雑所得など、細かいルールも規定されました。
その結果、すべての暗号資産オーナーにのしかかってくるのが最大55%に上る高税率です。株式や投資信託などの一般的な金融所得であれば所得税・住民税の税率は約20%に軽減されるうえ、損失を翌年以降3年間にわたって繰り越せます。
対して暗号資産は雑所得に分類されるため、他の所得と合算され税金を算出しなければならず、合計額が増すほど累進課税が適用され、最高税率は55%にもなります。しかも損失が出ても、金融所得のように繰り越すこともできません。
予期せぬ税負担で苦しむ事態に陥らないよう、暗号資産の利用状況や課税関係に注意が必要です。
文責 仙台市で相続税に特化した税理士事務所|栁沼隆 税理士事務所
所長 栁沼 隆
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