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 暗号資産は、資金決済法2条14項で次のように定義されています。

 

①物品等・役務の提供の代価の弁済として不特定の者に対して使用でき、かつ、不特定の者との間で購入・売却をすることができること

②電子的に記録された財産的価値であって、電子情報処理組織を用いて移転することができること

③本邦通貨、外国通貨、通貨建資産及び電子決済手段に該当しないこと

 

2008年にビットコインが誕生して以来、急速に拡大した暗号資産市場ですが、その成長に法整備が長く追いついていませんでした。そこで暗号資産の法的位置付けを明確化するよう求める声が高まり、2016年にようやく法改正されました。

 ただし、改正資金決済法が施行された今もなお、暗号資産を巡る法制度は曖昧な部分が残っています。その代表的なものが、「差押対象としての暗号資産」です。

 皆さん御存知のように、税金を期限までに納められず滞納しますと、当局に資産を差押えされます。対象は現金から動産、無形資産、債権まで多岐にわたり、その手続きについては、差押可能な資産の種類から差し押さえ後の換金化の手順まで、法律で明確に定められています。個人ないし法人の財産を同意なく取り立てるため、厳格な法的根拠に則って実行されます。

 ですが、暗号資産については新しい種類の財産であるため、差押に関する法律が今もまだ整備されていません。ただし実務においては、暗号資産が差し押さえられているケースが、少なからずあります。なぜかというと、暗号資産取引で使用するパスワードのようなものを指す「秘密鍵」を取引所が保管している場合、現行法でも差押手続きが可能なためです。

 現状、暗号資産を取引する場合、秘密鍵を管理する方法は2種類あります。自分で保管するか、取引所に保管してもらうかです。

 自分で保管した場合、取引所へのハッキングによる秘密鍵流出リスクがなくなります。ただし、自分でセキュリティーを完備する必要があり、相応の知識が求められます。

 一方、取引所で秘密鍵を保管してもらう場合、専門的な知識が不要というメリットがあります。取引所がクラウド型サービスを提供していれば、どの端末からでも簡単に取引できるので、こちらの保管方法をとっている人が多くみられます。

 実務においては、交換業者が行う暗号資産交換業に関する利用規約等により、取立てにあたって、暗号資産の返還請求権の差し押さえを行い、暗号資産を日本円に換金して取立てを行っています。

 ただし、あくまでこれは、秘密鍵が取引所にある場合で、自分で秘密鍵を保管している限りは、税を滞納したとしても差し押さえの手が及ぶことはありません。暗号資産は、民法上の動産に該当せず、債権にも該当しません。「第三債務者等がない無体財産権等」として差し押さえることは不可能ではありませんが、差し押さえを行ったとしても国が直接的に資金化する法律がなく、さらに秘密鍵を持つ滞納者は暗号資産を自由に処分できるため、差し押さえの実効性が伴いません。つまり、秘密鍵を自分で持った状態で暗号資産を保有すれば、税滞納をしても差し押さえを受けないか、あるいは受けそうになったとしても第三者に送れば逃げ切れることになります。

文責 仙台市で相続税に特化した税理士事務所|栁沼隆 税理士事務所

所長 栁沼  隆

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