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 国税当局が2023年7月~24年6月に実施した相続税の実地調査8,556件のうち、申告漏れなどの非違が指摘された件数は8割超の7,200件に上ります。相続税申告の8割超に税理士が関与しているにもかかわらず、申告漏れがこれほど発生するのは、相続税の申告は専門家にとっても難しい手続きであり、また相続人が気付かなかった相続財産が後から出てくることがあるためです。

 相続に関する手続きでは、様々な特例の適用可否や財産評価など、対応しなければならない項目が多岐にわたります。同じ税理士であっても、全員が相続税の国家資格の認定試験に合格しているわけではなく、苦手意識を持つ税理士も多くみられます。

 経験が浅い税理士が相続税の申告に関わった場合、調査で問題を指摘されることも少なくありません。専門家でない相続人が独力で申告すればなおさらでしょう。2023事業年度の相続税申告への税理士関与割合は、86.3%となっています。

 相続税関連のミスを防ぐには、申告漏れが発生しやすいポイントを確認するのが近道です。申告漏れ財産の代表格には、口座名義人と実際の所有者が異なる「名義預金」が挙げられます。被相続人が生前に通帳を管理し、入出金していたのであれば、たとえ家族名義の口座であっても名義預金と認定され、相続税の課税対象となります。

 毎年の相続税調査でも、多くの相続人が名義預金を指摘され、追徴課税を受けています。過去にあった事例では、被相続人が生前にお金を振り込んでいた家族名義の預金を相続人が申告しなかったところ、実質的な口座所有者は被相続人であると税務署に指摘され、さらに現金を生前に手渡ししていたことも発覚。2億9千万円もの申告漏れを認定されたケースもありました。 家族名義の預金は、当局は資産の移し替えを徹底的に調べ上げ、丸裸にします。

 名義預金は昔から申告ミスが多い財産の定番ですが、国税当局が近年監視を強めているのが、海外財産です。海外資産への相続税調査はこの15年ほどで約10倍に増え、2023事業年度だけでも947件の実地調査が行われています。問題が指摘されたのはそのうち168件。調査によって申告漏れなどの問題が指摘される割合は、相続税の実地調査全体でみると84.2%ですが、海外財産関連の調査では17.7%にまで下がります。これは国内にしか財産を持っていない相続人には、入念に下調べをして、高確率で問題があると分かった段階で実地調査に入る一方、海外財産を持つ相続人には、問題を指摘できるかどうか不確定であっても調査をしている当局の実態が見て取れます。

 相続税調査では、過去の贈与が発覚し、贈与税に追徴課税が加えられることもあります。過去の事例では、相続税の未申告を指摘された納税者が、調査官に納税することを約束したものの、その時点で過去の全ての贈与財産を当局に伝えていませんでした。結局、税務署に預金情報を調べ上げられ、合計3千万円の申告漏れが指摘されました。申告漏れの発覚が遅れれば遅れるほど延滞税は高額になります。

 このほかには、被相続人の借金の額を正確に把握していないと、過少申告扱になる恐れもあります。なかには被相続人の借金額を意図的に偽装する納税者もいて。ある事例では、被相続人には知人からの多額の借金があったと申告し、納税額を過少に申告しました。税務調査においても「金銭消費貸借契約書は締結していないが、借入金があるのは事実」と主張し、相続発生後に知人と交わした書類がその証拠だと提供しましたが、税務署が知人に確認したところ、金銭を貸した事実はないことが明らかになりました。

 調査を受けて問題を指摘されなかったのは5人に1人に過ぎず、たとえ意図的な税逃れをしていなくても調査対象となれば何らかのミスを指摘される可能性が非常に高くなります。相続人は申告時に現金や預貯金の把握漏れがないかをきちんと確認し、また財産を残す立場の人は、海外財産や名義預金があるなら生前に家族と話し合い、対策を練るようにしてください。

文責 仙台市で相続税に特化した税理士事務所|栁沼隆 税理士事務所

所長 栁沼  隆

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