第1181話 借地権or賃借権
相続税の評価上、「借地権」と「賃借権」が混同される場合があります。借地権は土地の賃借権と認識されますので、借地権も賃借権の一部であることは間違いありませんが、相続税の評価上は、「借地権」は「建物の所有」を目的とする土地の賃貸借の権利を意味します。このため、建物以外の建築物、典型的には「構築物の所有」を目的とするような土地の賃貸借の権利については、「賃借権」として評価されます。
このような違いがあるので、土地の賃貸借があった場合、建物の建築が可能な「宅地」の評価では借地権を認識することが多く、それが困難な「雑種地」の評価では、賃貸借が問題になることが通例です。
被相続人がその同族会社に貸した土地の評価について問題になった事例があります。会社はその土地に、駐車場として利用するための車庫を建築して地代を支払っていました。駐車場は税務上原則として構築物なので、構築物を設けるための賃借権と判断されました。
相続税の評価上、自分で使う土地よりも他人に貸す土地は利用価値が下がりますので、その下がる価値に相当する部分について、借主に借地権または賃借権があるとして、貸主はこれらの権利の評価額を自己利用の土地の評価額から控除できます。借地権の方が賃借権よりも評価額がはるかに大きいですから、処理を間違うと多額の追徴につながります。このため、被相続人が賃借している土地については、そこに建てる建造物の種類や対象地の地目(宅地か否か)などにも注意が必要です。
しかし土地に定着する建造物であるという点では同じですから、土地の上に建てられている建造物が建物であるのか構築物になるのか、その判断について実務上迷うことがあります。この点、建物となると、壁で囲まれた空間が存在するのが大きな特徴です。
構築物の場合は、壁がないものや床や屋根がないものがあります。加えて建物であれば、不動産登記の対象となりますから、これについても検討が必要です。
それにとどまらず、相続が発生した時点では、まだ建物がないような場合がありますので、本当に建物を建てるための賃貸借がなされたのかの判断も重要です。実務においては、賃貸借契約書をベースに判断されると考えられますが、「実際の使用状況、建物の使用等により客観的に判断」すると指摘された裁決事例があります。このため相続税の申告時には、未建設のため、契約書の文言に従って借地権の対象となる土地として申告したものの、それから数年たってから実施される、実際の税務調査においては構築物が建築されていた場合、その土地は賃借権の対象となる土地であると指摘される可能性があります。
文責 仙台市で相続税に特化した税理士事務所|栁沼隆 税理士事務所
所長 栁沼 隆
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