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 配偶者の生活を守るために始まった民法改正の議論では、当初、配偶者の相続分を増やす改正案が検討されていました。この改正案として被相続人の財産が婚姻期間中に増加した場合には配偶者の相続分を増やすという甲案と、婚姻期間が20年を経過した場合には配偶者の相続分を3分の2に引き上げるという乙案があったのですが、パブリックコメントの段階で反対説が多く頓挫してしまいました。

 そこで登場してきたのが聞きなれない配偶者居住権という制度です。住宅の権利を所有権と居住権に分割し、配偶者が居住権を取得すれば、所有権が別の相続人や第三者に渡っても、配偶者自身が亡くなるまで、ずっとその住宅に住み続けることができる権利をいいます。
この配偶者居住権が認められるのは、
①遺産分割によって配偶者居住権を取得すると合意されたときと、
②配偶者居住権が遺言によって遺贈の目的とされ、あるいは配偶者居住権を取得させる旨の死因贈与契約があるときとされています。
しかし、この制度の下では、介護老人ホームに入居後の居宅は処分できなくなり、空き家として放置するしかありません。また車いす生活になった場合には、自宅を配偶者自身でリフォームできるのかといった様々な問題が残ります。この配偶者居住権は、いわば居住者と土地所有者の両者の財産処分権を奪う制度ともいえるのです。

 気をつけておきたい点はまだあります。
 被相続人の生前にその住宅を担保にとっていた担保権者などにとって、相続開始によって予測できないリスクが生じうる点です。配偶者居住権は、あらかじめ遺言書に書いておくか、相続開始後に遺産分割協議などで決めることで取得できますが、遺言書はいつでも新しいものを作成でき、最新のものが有効になるため、あらかじめ担保設定時に確認していたとしても確実とはいえないと思われます。また遺産分割協議は相続開始後におこなわれるため、担保設定時にあらかじめ、居住権が発生するかどうかを知っておくことは不可能です。仮に担保設定時の契約の中に配偶者居住権を取得させない条項を入れたとしてもその条項の有効性は疑わしく、損害賠償などを求めることは別として、取得自体を契約でコントロールすることはできないと思われます。相続開始時に、担保の住宅に生存配偶者が住んでいるかどうかは、もちろん予測できません。

 したがって、担保権者と配偶者居住権を取得した生存配偶者との間でどちらが優先するかは対抗問題(登記の先後)で解決することになります。配偶者居住権は設定登記ができるうえ、登記請求権があるため、そのような請求権がない賃借権より登記がされる場合が多くなると思われます。担保権者としては先に登記を備えておくことがより重要になりますが、仮に登記で勝てたとしても、いずれにせよ、生存配偶者との交渉は避けられないと思われます。結局、このような予測できないリスクは避けることが難しいと言わざるをえません。
 なお、この配偶者居住権の施行日は2020年4月1日ですので、遅くともそれまでには、上記のリスクなどにどう対応するか、検討しておく必要があるとおもわれます。

 

文責 仙台市で相続税に特化した税理士事務所|栁沼隆 税理士事務所

所長 栁沼  隆

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