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 相続税の暦年贈与制度が廃止となりそうです。昨年末の与党税制改正大綱で「本格的に検討を進める」との文言が盛り込まれ、間もなく発表される年末の大綱で抜本的な見直しが予想されています。早ければ来年からこの節税方法を活用できないことも想定しておかなければなりません。さらに暦年贈与だけではなく、教育や住宅資金贈与も廃止になる可能性も囁かれています。早急な計画見直しが望まれます。

 2019年に相続税を支払った人は、相続全体の8.3%で、2015年に基礎控除が引き下げられる以前に比べるとほぼ倍増しています。そして相続財産を減らすために生前に贈与しておくのが暦年贈与という制度です。110万円までは課税されないので、長年にわたりこまめに資産を移動しておけば、いざ相続のときには相当な節税効果を発揮します。

 生前贈与するには、暦年贈与と相続時精算課税制度の2種類があります。年間110万円まで課税されないのが暦年贈与で、相続時の財産圧縮方法として、すっかりポピュラーなものとなっています。

 一方、後者の相続時精算課税制度は、生前に贈与した分が2500万円までは税金がかからず、相続時に贈与当時の時価で相続税がかかる制度です。そのため土地などの価格が低いときに相続時精算課税制度を使って贈与しておき、いざ相続時に地価が上昇していれば価格上昇分の大きな節税効果が得られます。もちろんその逆も考えられますので、博打的要素は否めません。また、一度でも相続時精算課税制度を利用して贈与しますと、暦年贈与の110万円枠は使えなくなりますので注意が必要です。そうしたことから、一般には暦年贈与を選択することが圧倒的に多くみられます。

 その暦年贈与が、今後廃止または大幅に縮小される可能性が高くなっています。昨年末の税制改正大綱で、「諸外国では、一定期間の贈与や相続を累積して課税すること等により、意図的な税負担の回避も防止されるような工夫が講じられている。今後、こうした諸外国の制度を参考にしつつ、相続税と贈与税をより一体的に捉えて課税する観点から、格差の固定化の防止等に留意しつつ、資産移転の時期の選択に中立的な税制の構築に向けて、本格的な検討を進める」という文言が盛り込まれました。

 つまりは、相続税と贈与税を一体化することで、贈与税を実質的に廃止することを示しています。財産を子に渡すのが親の生前か死後かで税金の差が出るのはあってはならないということらしいです。

 大綱で触れられている「諸外国」に目を向けますと、欧米では相続税と贈与税は一体化され、税負担は一定、資産移転の時期は中立となっています。イギリスが死亡前以前7年間、フランスが15年間、アメリカが生前贈与すべてに相続税を課しています。

 今年の税制改正では、格差をなくすという大義のもと、諸外国の制度を参考にしつつ、暦年贈与という節税策が使えなくなることを想定しておかなければなりません。甘利明自民党税制調査会長は「資産課税は時間をかけて国際標準にそろえる必要がある」と発言しています。

 税制改正大綱に載った以上、暦年贈与の廃止または大幅な縮小は、ほぼ確定路線とみていいでしょう。そしてこれ以外にも富裕層の節税封じは着々と進められています。

 生前贈与で活用される節税策としては、住宅取得資金は1000万円(耐震・省エネ住宅なら1500万円)、教育資金は1500万円、結婚・子育て資金は1000万円まで、その目的に使われることを条件に非課税となっていますが、いずれも時限的な制度で、住宅は今年12月まで、教育や結婚・子育ては23年3月末までです。これらは延長されることなく廃止される可能性が高いでしょう。

 またこれらの贈与だけでなく、政府は株式の配当や譲渡益にかかる金融所得課税の税率引き上げも視野に入れています。

 贈与特例がいつ廃止になってもおかしくないことを鑑みれば、早めに相続、贈与を含めた計画を協議することが必要です。

 政府が贈与税の改革に本腰を入れるなら、経過措置を取っ払い、早ければ来年からこの節税方法が利用できなくなるかもしれません。まもなく発表される税制改正大綱に沿って、相続税・贈与税の一体化が改正法案に盛り込まれれば、年明けの通常国会で審議され、来年度中に成立・施行しても不思議ではありません。

文責 仙台市で相続税に特化した税理士事務所|栁沼隆 税理士事務所

所長 栁沼  隆

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