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 ロシアによるウクライナへの侵略が長期化の様相を帯びています。事態が長引くにつれ戦費も膨張の一途をたどり、どちらの国にとっても国家財政に深刻な影響が生まれつつあります。過去の歴史を紐解いても、戦争は人的被害だけでなく、破滅的な経済的損失を国家に与えてきました。その損失を埋めるべく利用されるのは常に「税」であり、その負担を背負わされるのは常に国民です。今回は戦争と税の歴史を振り返ってみましょう。

 ロシアが国境を超えてウクライナへの侵攻を開始したのは2月24日のことでした。ロシアとしては3日で首都キーウを陥落させる計画でしたが、ウクライナの防御や反撃で、今現在、事態の終息は見通せない状況です。

 こうした状況のもと、ウクライナ財務省は、開戦1ヶ月で同国が費やした戦費が約1兆2千億円に上るとの概算をこのほど示しました。2022年の同国の国内総生産は前年から40%減るとの予測もあり、経済の落ち込みが懸念されます。

 ウクライナより多大な戦力に加え、長い補給線や長距離の兵員輸送などの事情を抱えるロシアの状況はさらに深刻です。英国の調査研究機関の発表によりますと、ウクライナ侵略におけるロシアの戦費は開戦時点では1日8千億円超でしたが、現在では1日当たり最大3兆円にも上るとのことです。この数字は戦費のみならずトータルの経済損失も含むとの説もありますが、それにしても国家財政に打撃を与える規模の多大な出血が続いているのは間違いありません。

 戦争には、とにかくお金がかかります。第2次世界大戦で日本が戦費に費やしたお金は、名目上だけでおおよそ約7600億円といわれています。もちろんこれは当時の金額であり、戦争中は貨幣価値が大きく変動しますので実情を正確に反映していませんが、わかりやすく言えば、日中戦争開戦当時の国家予算の約280倍です。今の金額に換算しますと、戦争が起きてから数年間で2京8千兆円が投じられたことになります。もはや単位が異次元です。

 第2次世界大戦当時は、参戦国は膨張する戦費を捻出するために戦時国債を発行しましたが、それだけでは肥大化し続ける軍事費を賄いきれません。そこで国家の収入の柱である税金を上げることになります。

 米国では第1次世界大戦のころから各税目に増税傾向がみられ、第2次世界大戦時の所得税率94%でピークに達しました。歳入に占める所得税と法人税の割合は戦争前の1940年度には39%でしたが、1944年度には79%と倍増したと言います。

 米国の税収が上がった理由は増税以外に1943年に導入された「源泉徴収制度」があります。人材が不足しがちな戦時の徴収効率を上げる源泉徴収制度は税収増に大きく貢献しました。そもそも源泉徴収のルーツとなる制度を世界で初めて採用したのは18世紀の英国で、ナポレオン戦争の戦費調達が目的でした。税制が戦争と深くかかわりを持っていることがよくわかります。

 日本では「相続税」が日露戦争の戦費調達を目的としてスタートしました。その後、第2次世界大戦でも熾烈な増税を実施し、租税収入が1937年に17億円だったものが、1944年には127億円と7.5倍に増加しています。当時の国民1人当たりの租税負担が、数年間で10倍に増加したことになります。

 税制を使った国民の負担増は、戦争中だけでなく戦後も続きます。日本では終戦翌年に、戦後処理のための戦時補償特別税が導入されました。これは戦時中に国が「後で払う」といって半強制的に結んだ徴用契約により徴用後に沈没させられた船舶などの補償について100%の課税、つまり請求権と同額の税を課しました。

 それだけではなく同年には、軍需産業などで利益を得た富裕層をターゲットにした財産税も導入されました。その最高税率は90%でした。

 税は国家の姿を映す「鏡」と言われますが、戦争という暴力が吹き荒れる時代には、税が国民の財産を奪う力を最大限に発揮することがわかります。戦争というものは命だけでなく過重な税負担というかたちで人々の日常の生活を壊し、未来をも奪っていきます。

文責 仙台市で相続税に特化した税理士事務所|栁沼隆 税理士事務所

所長 栁沼  隆

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