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相続税の確定申告の資料で真っ先に疑われるのは、実際にお金を預金している人と口座の名義人が違う「名義預金」の存在です。

 名義預金を含めた「現金・預貯金」は全体の約3割で、「土地・家屋」の約5割と比較しますと少ないですが、調査で発見される申告漏れ財産で見ますと「現金・預貯金」は4割近くに上り、「土地・家屋」の約1割を大きく引き離します。

 調査官にとって資料の中から指摘しやすいのが現金・預貯金であり、なかでも調査官の格好のターゲットが名義預金です。

 預金口座の名義人が相続人であっても、税務署から実質的な口座の所有者が亡くなった被相続人だと判断されてしまいますと、預金の全額が相続税の課税対象となってしまいます。一旦名義預金であると疑われてしまいますと、その金銭が名義人の固有財産であることをこちらから証明しなければなりません。

 金融機関は以前に比べて本人であるかどうかを厳しくチェックしていますので、借名口座を開くのは事実上困難ですが、過去に作った口座に被相続人が預金を移すことはできます。そこで当局は被相続人と相続人の口座の入出金状況を数年間にわたって調査し、資金を移動させた形跡が明らかであれば、名義預金と判断します。

 名義預金の中でも当局が狙いを定めているのが、贈与税の基礎控除である110万円の範囲内で子供や孫名義で毎年預金を繰り返したケースです。

 Aさん(被相続人)は、妻と子供に対して生前贈与を行っていましたが、そのお金は妻と子供名義の口座に入金していました。これはAさんが二人に黙って新規に作った口座で、妻と子供はその口座の存在自体知りませんでした。ふたりの口座をつくる際に必要な印鑑などもAさんが自分の印鑑を使用しました。そしてAさんはこの口座に生前贈与としてお金を入金し続けたのです。口座の名義自体は妻と子供ですが、実際に口座を預金・管理していたのはAさんでした。そしてAさんが亡くなったのです。

 この場合には、そもそも贈与契約が成立していません。贈与契約というのは、贈与者と受贈者が双方合意のもとで行うものであり、相手の了承を得ずして行われたものは贈与としては無効です。明らかな名義預金として妻と子供名義の預金は、Aさんの相続財産として加算されます。

 また夫婦間でお互いの財産の線引きがあやふやになっている場合も名義預金を指摘されやすくなります。妻が運用していても口座の名義が主人のままなら問題ありませんが、徐々に妻名義に移行していったり、あるいは急に妻名義の預金にしていたりした場合には、税務調査で追及されます。

 それでは名義預金かどうかを疑われないようにするにはどうするべきか。

 1つ目は、預金口座の管理・運用を妻や子、孫がしていたかどうかです。通帳、カード、印鑑をきちんと子や孫が管理しているのかを改めて確認しておく必要があります。

 2つ目は届出印が贈与者と受贈者で違うものを使っているか、つまりは贈与者の印鑑で通帳を作っていないかの確認です。

 3つ目は口座作成時の届出住所が子や孫の住所になっているかどうか。例えば嫁いだ娘や家を出た子供の届け出住所は家を出た先の住所地でないとおかしいはずですが、そのままだったり、嫁いだ娘の口座名義が旧姓のままだったりしますと、名義預金を疑われることになります。

 4つ目は、預金の利息が子や孫の口座に移っているかどうか。定期預金などの利息を誰が受け取っているのかも名義預金を疑われるポイントになります。利息が贈与者の普通預金に入金されているケースは名義預金と判断されることになるでしょう。

 5つ目は、110万円を超える贈与を行った場合、子や孫が贈与税の申告をしているかどうか。これも子や孫がきちんと贈与税の申告を行っているかによって、お互いに贈与の認識があったかどうかがチェックされます。贈与税の申告というものは原則的にお金をもらった本人が行わなくてはならないので、贈与をした親や祖父母が勝手に申告をしていた場合には贈与が成立しませんので、子供名義の口座に入っているお金は、名義預金と判断されます。

 調査官は税務署に提出された相続税の申告書と既に把握している被相続人の資産状況を照らし合わせて被相続人の預金が少なければ、その資金がどこに行ったのかをチェックします。例えば、亡くなったBさんには妻とふたりの子供がいたとします。まず調査官はBさんから妻や子供へ資金が流れたのではないかと疑います。調査官は金融機関の照会で銀行や証券会社などからこの一家の取引明細を入手します。家族の取引内容について金融機関名、取引した年月日、預金者名、取引金額を調査するのです。

 これにより、Bさんから子供たちに資金が流れている、もしくはBさんから子供たちに流れた資金が同じ日に現金出金されているといった事実があきらかにしていくのです。

文責 仙台市で相続税に特化した税理士事務所|栁沼隆 税理士事務所

所長 栁沼  隆

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