2997809_m

 当局による税務調査は税法に則ったものであり、そこに個人の意趣や思惑が入ることは許されないはずですが、調査の現場では「お土産」と呼ばれるある種の取引や差配の余地があるのもまた事実です。しかしそれが互いにとって利益のある取引ならともかく、権力者や成功者に対する当局側の一方的な〝意趣返し〟であったらどうでしょうか。そんなものが実在するのかはわかりませんが、少なくとも調査を受けた当事者がそう感じる事例がある事もまた確かです。

 高度成長期に野村証券の中核を担い、オリンパス社を巡る巨額粉飾事件で有罪判決を受けた横尾宣政氏の著書『野村証券第2事業法人部』には、税務調査を受けた際に当局の特別調査官に次のように言われたという下りがあります。 

 「この前言ったことは覚えているな!税金を払わないつもりなら、新聞を使ってでも、どんな手を使ってでも課税してやる。会社の上層部にそう伝えておけ」

 結果として、1か月半後に読売新聞に証券取締法違反の疑いと損失補てん時の偽装工作のスクープが次々と掲載され、同社への世論は急速に厳しくなっていきました。当時、野村側は税務調査の期間中も『損失補てんではない』と主張して争っていました。これが東京国税局の逆鱗に触れ、読売新聞に対するリークにつながったと言われています。

 なお横尾氏は、野村證券退社後もオリンパスの粉飾決算を巡るゴタゴタのなかで税務調査を受けています。その際には、社宅として登記していた自宅の経費性を否認されたり、高齢の母親まで事情聴取されたりして「腹が煮えくり返る思いだった」と書かれています。

文責 仙台市で相続税に特化した税理士事務所|栁沼隆 税理士事務所

所長 栁沼  隆

「所長の独り言」一覧はこちら

 

免責
本記事の内容は投稿時点での税法、会計基準、会社法その他の法令に基づき記載しています。また、読者が理解しやすいように厳密ではない解説をしている部分があります。本記事に基づく情報により実務を行う場合には、専門家に相談の上行うか、十分に内容を検討の上実行してください。当事務所との協議により実施した場合を除き、本情報の利用により損害が発生することがあっても、当事務所は一切責任を負いかねます。また、本記事を参考にして訴訟等行為に及んでも当事務所は一切関係がありませんので当事務所の名前等使用なさらぬようお願い申し上げます。