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 今年度の税制改正大綱には、防衛力の拡大強化に必要な財源確保のため、法人税、所得税、たばこ税の3つの税目で増税措置を複数年かけて実施することが盛り込まれています。ですが政府・与党の議論の経緯は不明瞭であり、防衛増税の根拠が十分に示されたとは言い難い状況です。防衛費の大幅増ありきから国民の負担増へと一足飛びとなった印象を否めません。

 今年度予算は、一般会計の歳出総額が114兆3,812億円と前年度当初から約6兆8千億円増え、過去最大となります。防衛力強化の政府決定を受け、防衛費が急膨張したことによります。今年度から5年間の防衛費を、それまでの27兆円から43兆円に増額させます。当初は4月から発足する子ども家庭庁を中心に組まれるはずでしたが、子ども関連の予算は見る影もありません。

 43兆円の財源を巡っては、歳出削減などで財源をひねり出しますが、それでも足りない1兆円超につきましては、増税で賄います。

 防衛増税の是非は議論が分かれるところですが、その決定経過については看過できるものではありません。

 これら増税は、自衛隊の現場から積みあがった金額ではなく、最初から数字ありきで、財源についても与党内の議論もなされないままでした。岸田首相は「内容と予算、財源を一体で議論する」と再三繰り返してきましたが、実際は「議論なし」「規模ありき」の増税となったと言わざるを得ません。

 これまで防衛費は、GDP比1%程度で推移してきましたが、今年度から5年間で段階的に引き上げ、2027年度には2%の倍額になるよう岸田首相が指示を出しております。

 この増税については、税制改正大綱に以下のような項目が盛り込まれています。

①法人税は、中小企業などに配慮したうえで、納税額に4%から5%の付加税を課す。ただし軽減措置により中小企業の大半は対象外となる。

②所得税は、納税額に1%の新たな付加税を課す。そのため、所得税の中から東日本大震災の復興予算に充てている復興特別所得税の税率(2.1%)を1%に引き下げる代わりに、期間を大幅に延長。事実上、復興特別所得税から防衛費を捻出する。

③たばこ税は、1本あたり3円相当の引き上げを段階的に行う。

①の法人税については、本来の税率は変えず、中小企業に配慮して税額控除を設け、税額500万円以下の法人(課税所得では約2400万円に相当)は対象外となります。

②の所得税は、復興財源のための上乗せ分をほぼ半分に減らし、その分を新税に転用して2千億円程度を確保します。両方を合わせた負担は今までと変わらず、税を課す期間を延長することで復興財源の総額は減らないと政府与党は説明しています。

 しかし復興特別所得税は、東日本大震災の被災地の様々な復興事業に使う財源であり、国民が復興税を受け入れてきたのは被災地の早期再生を望めばこそだったはずです。この新税分はそのまま増税となっており、「個人の所得税の負担が増加する措置は行わない」とした岸田首相の発言と矛盾しています。今回の付加税創設に伴って2037年までの徴収期限は14年間延長され、国民は追加負担を強いられることになります。

 増税とは別に、歳出の見直し、決算剰余金、国有財産売却益などの資金を充てて財源を確保するとしています。しかし剰余金や国有財産売却益などの税外収入が都合よく毎年度確保できる保証などありません。政府は歳出見直しによる財源を最終的に約1兆円確保する計画ですが、2023年度に集められたのはわずか2千億円ほどです。

 そして政府の方針として、戦後初めて「建設国債」を自衛隊施設整備費の一部に充当します。これまでは防衛費については「消耗的な性格を持つ」(1966年の福田赳夫大蔵大臣国会答弁)として国債による調達を認めてきませんでした。建設国債の発行はインフラのように将来世代も受益者となる場合に認められます。消耗品とみなされる防衛関連経費に充てないことが歴代政権の見解でした。

 そもそも財政法が国債の使途を公共事業などに限っているのは、野放図な戦費調達により財政危機を招いた先の大戦への反省があるためで、日銀による国債引き受けの禁止と並ぶ健全財政の要です。岸田首相は、以前記者会見で、国債の選択肢について「未来の世代に対する責任として取り得ない」と明言していました。このままでは国債発行による借金頼みに陥る可能性も否めません。さらなる防衛費の増額を続ければ、増税が拡大することも懸念されます。

 岸田首相の増税方針には高市早苗経済安全保障担当相をはじめ、閣内からも公然と批判の声が上がりました。安保政策の大転換が、閣僚や与党議員に詳細な説明がないまま進む事態は、異様としか言いようがありません。

 与野党の反発がすさまじいとあってか、岸田首相は「2024年から2027年の間の適切な時期にスタートする」と説明したうえで「それまでに選挙があると思う」と述べ、防衛費増額の財源を確保するための増税を始める前に衆院解散・総選挙に踏み切るとの見通しを示しております。

 防衛費の増額、法人税や復興特別税の扱いについては、これまで国会の本格論議がなかったため、自民党内部だけでなく野党も「国会軽視」と強く反発しています。通常国会で増税の判断が正しかったのかきちんと議論することが肝要です。

文責 仙台市で相続税に特化した税理士事務所|栁沼隆 税理士事務所

所長 栁沼  隆

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