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 世間には何気なく妻や子供にプレゼントしたものが贈与と認定されて予想していなかった税負担を課される「うっかり贈与」が散見されます。渡し方さえ間違えなかったのなら無税で引き継げる財産に課税されるのはあまりにもったいない話です。

 贈与税は、原則として年間110万円を超える財産をもらった人が、その額に応じた税率に従って納める税金です。年間にもらった財産に係る贈与税を、翌年2月1日から3月15日までに申告と納税をしなければなりません。

 贈与が税負担を前提にした計画的なものであればよいのですが、そのつもりもないのに贈与と認定されて税を課されてしまうケースもたまにあります。俗に「うっかり贈与」と呼ばれるもので、送った本人としてはちょっとしたプレゼントや、妻や子の名義を借りただけのつもりが、ある日税務署から贈与税の申告についての問い合わせがあって仰天することもあります。例えば次のような事例です。

 

うっかりその1

 

 株式投資が趣味の中村さん(仮名)は、ある会社の株について自分だけではなく、息子の名前でも購入しました。なぜならトータル5千株を購入するにしても、中村さん一人の名義ならもらえる株式優待券は4枚まで。ところが2千株と3千株に分けて2人の名義にすれば、全部で5枚の株主優待券をもらえるからです。

 そもそも多くの優待券をもらうのが目的であって、株を息子にあげるつもりはなく、いずれかは売ってしまおうと考えていましたが、その息子が突然税務署から呼び出されました。一番驚いたのは息子本人です。父親が自分の名前を使って株を買っていることなど全く知りませんでした。この場合、お金を出した人と、そのお金で買った株の名義人が違っていれば、財産の移動があったものとして贈与税の対象になってしまいます。

 

うっかりその2

 

 娘の結婚が決まって喜んだ高橋さん(仮名)は、「これで新婚旅行を楽しんできなさい」と現金500万円をプレゼントしようと決めました。ところが友人から「それは贈与税になる」といわれてしまいました。

 新婚旅行は父親のために行くわけではないので、父親が娘の新婚旅行に多額のお金を出せば贈与税がかかります。しかしやり方を変えれば、無税あるいは少額の税金でお金を渡すことができます。

 結婚式や披露宴は、結婚する当人の為であると同時に、親の為であるという考え方が一般的です。そのため親がある程度豪華な結婚式を挙げさせても、親自身のためにしたものとみなされ、一般的に贈与税の対象にはなりません。一般的な世間常識的な限度はありますが、親に援助してもらった同額のお金でも、「結婚式の為」といえば税金がかからないことになります。

 

うっかりその3

 

 若い頃に加入した生命保険が、ついに満期を迎えそうな加藤さん(仮名)。受取人には当然、自分が死んだときに保険金を受け取るべき妻の名前が記載しています。ですがこのまま満期を迎えますと、受取人である奥さんには多額の贈与税がかかってしまいます。

 生命保険は、契約者と保険金受取人との関係によって課税関係が異なります。契約者が夫、保険金受取人が妻という場合には、満期になって支払われる保険金は夫から妻への贈与とみなされ、妻に贈与税がかかってしまいます。この場合に、契約者も保険金受取人も夫ならば、贈与関係は生じません。その代わり、満期保険金は夫の一時所得として、所得税が課されます。一般的には契約者と保険金受取人とを同じにしておいたほうが節税になります。

 ならばすでに妻を保険金受取人としている加藤さんはどうしたらいいのでしょうか?

 こうしたケースでも、まだ満期を迎えていないなら対策はあります。贈与税と所得税のどちらがかかるかは、生命保険が満期になったときに決まるから、今のうちに受取人を自分に変更することで、贈与税はかからないことになります。

 

 うっかりその4

 

 長男の結婚にあたり、自宅の離れに若夫婦のための新居を建てた鈴木さん(仮名)。

 新居が完成すると、建物の登記をしますが、この登記にあたっては長男の名義としました。長男が住むのだから名義も長男でいいだろうと簡単に考えてしまったのです。ですが、こういったケースでも贈与税が課されてしまいます。

 このような場合、年内に新居の名義を鈴木さんに戻せば贈与はなかったものとなり、贈与税はかかりませんが、2度の登記費用がかかってしまいます。ならばどうするか。このような場合は、長男が鈴木さんから借金をして、その借金で新居を建てたとすれば贈与税はかからなくなります。

 ただ借金なので、当然返済は必要です。もし返済の事実がなかったのなら、税務署は「借金は見せかけだけで、実際は贈与ですよね」と指摘してきます。

 そのような疑いをもたれないためには、金銭消費貸借契約書を交わし、その条件通りに返済することが必要です。ただし、返済しなくても、年間110万円の贈与税の非課税枠を使い、その範囲内で債務免除を使う手もあります。

文責 仙台市で相続税に特化した税理士事務所|栁沼隆 税理士事務所

所長 栁沼  隆

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