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 相続財産の評価は評価通達で行うことになっていますが、その評価通達には通達による評価方法が「著しく不適当」となる場合に、税務当局が別途合理的と考える方法で評価できるという総則6項という規定があります。不適当かどうか、税務当局のさじ加減で決められるため、簡単に言えば税務当局の独断でルールを逸脱しても問題ないというとんでもない内容がこの6項であり、困ったことにそのとんでもない規定による課税を、納税者の権利を守るべき法の番人である最高裁判所も合法であると認めています。

 最高裁のお墨付きをもらった税務当局は、これまで以上にこの横暴な課税を繰り返しています。しかし先日、この規定による課税について、税務当局の処分を違法とした東京地裁の判決がありました。この判決では、相続開始前に租税回避行為と認められるような積極的な行為がないため、この規定を適用できないと判断したのです。

 過去の最高裁の判例では、節税目的でマンションを買うため銀行の融資を受けたり、高齢者が評価額の安いタワマンを高額で購入したりするなど、合理的理由がなく税金を下げる行為を行った場合が問題とされました。そのため今回の東京地裁では、税金を少なくする行為がないのに単に評価額が小さいという理由だけでこの規定を使って多額の課税をするのはやりすぎだと、税務当局の処分は違法と判断されたのです。

 結論だけ見れば非常に合理的な判断だと思われるでしょうが、実際のところは大きな問題があります。それは税金を下げようとする租税回避行為について、その意味と範囲が依然として明確ではないことです。どこまでが租税回避行為となるのかの線引きが今も全く分かりません。

 「租税回避行為」の意義については、裁判所や著名な税法の専門家も全く分かっておらず、日本一の租税法学者である故・金子宏教授の見解を示しているだけです。

具体的には「私法上の選択可能性を利用し合理的理由がないのに、通常用いられない法形式を選択することによって、結果的には意図した経済的目的ないし経済成果を実現しながら税負担を減少させ、あるいは排除すること」との主旨です。

 「合理的理由」や「通常用いられない法形式」といった、人により意見が分かれる曖昧な用語を使っていますので、そもそもこの内容を正確に理解することは非常に困難ですし、この意見を「租税回避行為」の基準にするには、課税の公平の原則から統一性が求められる税法という法律には無理があります。このため、6項を適用するなら租税回避行為が必要などと言われても、何ら問題解決にはなっていません。

文責 仙台市で相続税に特化した税理士事務所|栁沼隆 税理士事務所

所長 栁沼  隆

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