27765911_m

 税法上は合法であっても国税当局が税逃れとみなせば否認できる、いわゆる「総則6項」に関する裁判で、東京地方裁判所は1月18日、総則6項を適用した国税当局の主張を全面的に退ける判決を下しました。総則6項の適用を巡っては、2022年4月に最高裁が一定の基準を示しており、その判例に従った初の司法判断となります。納税者が申告した相続税評価額と、当局が算定した評価額には約10倍の開きがあったとされ、それにもかかわらず納税者が勝訴したことは今後の相続税対策にも少なからず影響を与えそうです。

 今回の裁判では、オーナー企業の非上場株式の相続税評価についての妥当性が争われました。中小企業のオーナー社長だった父親が2014年に、事業売却・提携を目的として他社と株式譲渡の契約に向けた協議を行うことで合意。その際、譲渡価格は1株当たり約10万5千円だったといいます。

 その後まもなく、父親が死亡したことから母親や子供(今回の原告)が自社株をそれぞれ相続により取得。事業売却の方針に変化はなかったため、そのまま1株10万5千円で譲渡が行われました。

 翌年、相続税の申告に当たって原告である子らは、自社株の評価額を通達に従って行いました。類似業種比準価額に沿って算定したところ、1株当たりの評価額は約8千円でした。その額で相続税を申告したところ、国税当局が「税逃れである」として総則6項を適用したものです。当局が算定した評価額は1株当たり約8万円で、その差は約10倍にも上ります。これに納得できない納税者は国税不服審判所に申し立てを行いましたが、2020年8月に下ろされた裁決結果は、当局の処分に問題はないとするものでした。

 去年の最高裁判決では、「タワマン節税」により評価額と実勢価額に乖離が生じたケースで、相続税の負担軽減を意図して不動産の購入や資金の借り入れが行われ、実際に相続税額がゼロになったことなどをもって、「他の納税者との間に看過しがたい不均衡が生じ、税負担の公平に反する」と総則6項の適用を認めております。その一方で、「路線価と鑑定評価額との間に大きな乖離があるということができるものの、このことをもって特別の事情があるということはできない」とも述べ、価格の乖離自体が、総則6項を適用する理由にはならないとの基準も示しています。

 今回の判決で岡田幸人裁判長は、最高裁判決のケースとは異なり、租税回避目的の自社株売却が行われたとは認められないと指摘。そのうえで自社株の売却価額と通達に従って算定した価額に約10倍の開きがあったとしても、それをもって総則6項の適用基準を満たすとはいえないとしました。

 裁判では、租税回避目的と認められる例も示されており、父親の生前に売却合意が整って手続き完了させられたにもかかわらず、税負担を軽減する目的で手続きをことさら相続開始後まで遅らせたり、売却時期を父親の死後に設定したりというケースが該当するとしました。

文責 仙台市で相続税に特化した税理士事務所|栁沼隆 税理士事務所

所長 栁沼  隆

「所長の独り言」一覧はこちら

 

免責
本記事の内容は投稿時点での税法、会計基準、会社法その他の法令に基づき記載しています。また、読者が理解しやすいように厳密ではない解説をしている部分があります。本記事に基づく情報により実務を行う場合には、専門家に相談の上行うか、十分に内容を検討の上実行してください。当事務所との協議により実施した場合を除き、本情報の利用により損害が発生することがあっても、当事務所は一切責任を負いかねます。また、本記事を参考にして訴訟等行為に及んでも当事務所は一切関係がありませんので当事務所の名前等使用なさらぬようお願い申し上げます。