第1150話 美術品

最近は、財産の「鑑定」を専門家が評価するテレビ東京系列の「開運!なんでも鑑定団」が人気です。お宝が予想と反対に高値だったり、偽物だったり楽しく見ています。この番組を税務的な観点から見てみましょう。
税務的な観点から見る場合に、3つのことが気にかかります。1つはもちろんお宝の鑑定額です。まず、お宝の鑑定額が高値だったからといって、直ちに税金がかかるわけではありません。鑑定額のことを税務的に言うと評価損益ということになります。税務では、原則として、評価損益には課税されません。評価益のことを含み益ともいい、含み益には担税力がないというのが税務の考え方の原則です。もちろん、評価損を事業の経費にするといったことも原則的にできません。
ただし、含み益が「実現」した場合には、税金が課せられることになります。含み益に課税される状況には、主に3つのケースが考えられます。それは、お宝を売却した場合、相続した場合、贈与した場合の3つです。これが税務的な観点から見た2つ目の視点です。つまり、お宝を今後どうするのかということです。しばしば、司会の今田さんが、「このお宝はどうされますか?」と尋ねることがあります。実は、この質問に対する答えが重要なのです。よくある答えが、「お宝をすぐに売って海外旅行に行きます」といったものです。この場合には、売却によって含み益が実現するので、所得税の譲渡所得というものになります。書画骨董は30万円を超えるものを売却した場合には、譲渡所得の対象になってきます。所得税の確定申告が必要になり、所得税が課せられる可能性があります。
また、「このお宝は家宝として大事にします。」という答えもよく見受けられます。この場合には、お宝を相続することを明言しているようなもので、将来相続財産として相続税が課せられる可能性があります。特に、年配の方が依頼人である場合には、注意が必要です。ただし、なんでも鑑定団の鑑定額が、そのままお宝の財産評価となるわけではありません。しかし、税務署は、お宝の財産評価の目安として目をつける可能性はあります。
「お宝は孫にあげます」というような答えもしばしば見受けられます。この場合には、お宝を贈与することになるので、贈与税が課せられる可能性があります。
3つ目の気になる視点が、お宝をどのように手に入れたかということです。よくある答えが、「借金のカタとしてもらった」というものです。この場合には、借主が債務の免除を受けたことになり、借主に贈与税が課税される可能性があります。ただし、借主が資力を喪失して債務を支払うことが困難な場合には、贈与税は課税されません。借金のカタとは、担保としてお宝を預かっていることになるので、借金を全額返すというような場合には、お宝を借主に返還しなくてはならないかもしれません。
「骨董店で安く買った」という答えも良く見受けられます。この場合に大事なことは、その領収書を保管していることです。前述の通り、お宝を売却する場合には、所得税の確定申告が必要です。領収書を保管してあれば、その金額を譲渡所得の取得費として控除できます。領収書がない場合には、売却価格の5%しか取得費として控除できなくなってしまいます。これは、「お宝を古い蔵で見つけた」場合も同じです。「インターネットオークションで買った」場合には、購入した記録が残るので、取得費に関しては問題がなくなります。
ただし、これまで書いてきたことが問題となるのは、お宝が300万円など高額である場合です。お宝が高額であることは、税務的にはあまり喜ばしいことではないのかもしれません。
それでは、そのような番組に出ていない人たちの相続財産についてはどのように考えるのでしょうか。被相続人が残した美術品や骨董品は、相続税の計算上、財産評価基本通達で「精通者意見価格等を参酌して評価する」(鑑定)と定められています。しかし、この鑑定にはお金がかかります。美術品1点につき1万数千円~2万円程度かかりますから、そんな絵画が何十点もあったら大変な出費になってしまいます。しかも鑑定費用は相続税の計算上控除できませんので、そのまま自己負担となってしまいます。
結局のところ、よほど著名作家の作品や高値で買った美術品でもない限りは、相続税の計算上、「家財」に含めるのが一般的です。その際には、相続税の申告書には、他の家財と合わせて、「家財一式」として10万円~50万円程度を相続税の計算に入れることになります。
文責 仙台市で相続税に特化した税理士事務所|栁沼隆 税理士事務所
所長 栁沼 隆
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