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 不安定さを増す世界情勢などを理由に、岸田前首相が防衛増税を打ち出したのが去年のこと。代替財源として俎上に載せられたのが「たばこ税」です。「たばこ税」は、いまや健康に気を使わない〝不届きもの〟に対する懲罰税として、もっとも取りやすい税金となっています。

 今年3月末に成立した2025年度税制改正関連法では、防衛増税の代替財源として、たばこ税を2027年4月から3年間、1本あたり0.5円ずつ段階的に増税していくことが盛り込まれました。たばこ税の増税は、2022年10月に加熱式たばこの課税方式が見直されて以来、5年ぶりです。

 たばこには、国税である「たばこ税」と「たばこ特別税」、地方税の「道府県たばこ税」と「市町村たばこ税」それに消費税が課せられます。最もポピュラーな「メビウス」を例にすると、販売価格580円の内、税金の合計額は357.6円となり、価格の61.7%が税金です。これは、ビールの37.9%、ガソリンの約40%をはるかに超えています。

 2022年度のたばこ税収入は、地方税を合わせ、2兆1400億円で、過去30年にわたり安定した税収を確保しています。

 たばこへの課税は、明治9年に施行された「煙草税則」によって営業税と個々の商品に対する印紙税の徴収を始めたのが最初です。

 施行後すぐに日露戦争の戦後調達などで、数度の増税を経て、1898年に葉煙草専売法が施行。大蔵省に専売局を設けて葉煙草の専売に着手しています。さらに1904年には、日露戦争の戦費調達のため、原料の葉煙草の買い上げから製造販売まですべてを国の管理として専売の対象を広げています。

 第2次世界大戦後の昭和24年、大蔵省専売局の管理を日本専売公社が引き継ぎます。そしてバブル前夜の1984年、中曽根内閣による公社民営化で「専売改革関連法」が成立し、日本たばこ産業株式会社が発足します。たばこの専売制度は廃止され、これに伴い制定されたのが現行の「たばこ事業法」です。

 この第1条には、「我が国たばこ産業の健全な発展を図り、財政収入の安定的確保に資することを目的とする」と掲げています。当時からたばこの人体への悪影響は指摘されていましたが、同法によれば、たばこは合法かつ安全なものと国がお墨付きを与えていることになります。そして同年、たばこ税法が施行、安定財源としての礎が築かれました。

 続いて1998年には、国鉄清算事業団及び国有林野事業の負債を補う目的でたばこ特別税が創設され、たばこ1000本につき820円の税率が定められています。国鉄の負債約37兆円のうちJRが受け持った12兆円を除く25兆円について、60年をかけて国が償還しています。(第4話参照)

 たばこ本税については、2003年7月、2006年7月、2010年10月に税率が引き上げられていますが、健康志向により、タバコをやめる人が多く、税収は2兆円を超えたあたりを行ったり来たりしている状況です。

 日本たばこ協会によると、1990年に3220億本あった販売数量は、2022年には926億本と、およそ70%減少しています。販売代金を見ても、2017年までは3兆円を維持してきましたが、そこからは減少の一途をたどり、2023年には2.4兆円まで落ち込んでいます。

 今やたばこ税は増税しても文句を言われない最も取りやすい税といわれています。

文責 仙台市で相続税に特化した税理士事務所|栁沼隆 税理士事務所

所長 栁沼  隆

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