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  2018年に成立した改正民法では、「配偶者居住権」という新しい制度が生まれました。これまでの法律では、遺産分割協議書で配偶者が自宅を得るとそれだけで法定相続分を満たしてしまい、預貯金といった他の相続財産を十分に取得できない可能性がありました。そこで家の価値を「所有権」と「居住権」に切り離し、配偶者はそのうち居住権のみを得れば家に住み続けられるようになるというものです。

 この制度のポイントとして、居住権を相続した配偶者が将来的に死亡すると、その時点で居住権が完全に消滅するということが挙げられます。この時に所有権を持つ子などに居住権が引き継がれるという考え方はされず、死亡による配偶者居住権の消滅には税金が課されません。

 例えば父親が死亡して相続税評価額5千万円の自宅が残されたケースでは、所有権3千万円と居住権2千万円に分割して子と母親がそれぞれ相続して同居し続けたとします。将来的に母親が死亡すると、その時点で居住権が消滅しますので、子には相続税は課されないことになります。結果、子は5千万円の価値のある自宅を3千万円分の税負担で手に入れることになります。もちろん父の相続の時点で、配偶者に居住権の分だけ相続税は課されますが、配偶者控除などを組み合わせることで税負担はかなり減らせることになります。父と配偶者の2度の相続におけるトータルの税負担を考えますと、とりあえず配偶者居住権を設定しておくことで相続税を大いに節税できることになります。

 注意すべきは、同制度が相続税対策になり得るのは、配偶者が死亡した時点であることです。死亡を理由とせずに居住権が消滅した際には、様々な課税関係を生じます。

 例えば、配偶者が相続した居住権を放棄した時には、所有者はその時点で居住権の分だけ経済的利益を得たとして、贈与税が課されます。これは両者の合意によって居住権が解除されても同じことになります。

 レアなケースとしては、配偶者に求められる最低限の用法順守義務が守られなかったとして、所有権者が正当に立ち退きを求める場合でも、やはり所有権者に贈与税が課されます。

 また条文を見ますと、被相続人が相続開始の時に居住建物を配偶者以外の第三者と共有していた場合は、配偶者居住権は成立しないという事が記述されていますので、適用できるか否かの段階でも注意が必要となります。

 最期に、配偶者居住権を使う上で気を付けるべきは、小規模宅地特例との兼ね合いです。同特例は一定要件などを満たせば自宅土地の評価額を最大8割減らすことができるルールで、母から子の相続の際に同特例が使えるのなら、配偶者居住権を使わずに小規模宅地の特例を使った方がトータルの税負担が少なくなる可能性があります。

 以上述べたように、制度が複雑なので、法律に詳しくない一般の人が完璧に利用しようとすると難しいと思われます。弁護士や税理士といった専門家に一度相談したほうがいいように思います。

文責 仙台市で相続税に特化した税理士事務所|栁沼隆 税理士事務所

所長 栁沼  隆

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