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 紳士服大手の「はるやまHD」で創業者一族の内紛劇が生じています。同HDの取締役会長を務める治山正史氏の退場を求め、正史氏の実姉に当たる岩淵典子氏が、株主総会での解任決議への賛成を求める手紙を一般株主らに送付していることが明らかになりました。大塚家具の例をみても、一族経営の企業における家族内の対立は、会社にとって大きなダメージになります。最悪、オーナー一族の自社株を手放さざるを得ない状況に追い込まれることになりかねません。

 はるやまHDの株を保有している一般ユーザーに、同社から送られてきた生々しい手紙の内容が、ツイッターで公開されました。

  手紙には冒頭に「治山正史の取締役選任反対のお願い」とあり、治山正史氏への批判が綿々とつづられています。

 「弟は自分の思い通りにいかないと社員にあたりちらし、新規事業を始めても気に入らないと放り出し、自分に意見する社員は、左遷・退職に追い込むことを繰り返しています」

 「弟のせいでこれ以上社員から犠牲者が出るのは耐えられません」

 正史氏を激しく非難しているのは、手紙の差出人であり正史氏の姉である岩淵(旧姓;治山) 典子氏です。ただし差出人こそ典子氏単独ですが、正史氏を経営から排除したいというのは創業一族の総意であるようです。昨年度の株主総会では、典子氏に加えて創業者である父の正次氏、叔父などが協力して正史氏の選任決議に反対したものの「反対票が1%足りず、51%で可決されました」と手紙には書かれています。

 コロナ過でのリモートワークの普及などにより紳士服の売り上げは落ち、同社の2021年3月期の売上高は前期比で23%減と深刻な状況にあります。それを踏まえ典子氏は、

「社員が弟を気にせず、はるやまの再建の為に全力で取り組めるように弟を解任させねばなりません」

「弟を入れない取締役体制の構築が、会社再建の第一歩です」

として、今年度の株主総会での選任決議への反対を訴えました。

 同社では今年5月に競合他社であるAOKIの元社長、中村宏明氏を新社長に招聘し、創業2代目社長だった正史氏は取締役会長に退いて、代表権を返上することで解任への動きを終わらせようとしていると典子氏は手紙に書いておりますが、内紛の結末がどうあれ、外部の中村氏が経営のトップに立つことは、同社の今後の在り方に大きな影響を及ぼすことになります。

もっとも現時点での中村氏はあくまで「雇われ社長」であり、経営方針の決定について実権を持っていません。株式会社の所有者はあくまで株主であって、その持株割合がそのまま会社内での支配力を意味します。外部社長を招聘したとはいえ、はるやまHDは変わらず治山家が支配する一族企業であることに変わりありません。

 現状のはるやまHDの株主構成を見てみますと、最も多くの株式を握っているのは、正史氏が社長を務める持株会社「㈱はるか」で、持株割合は10.98%、次いで創業者の正次氏の10.67%で、以後典子氏などを含む親族や持株会社が続きます。正史氏の持株割合は2.94%と6位に過ぎませんが、昨年の解任決議で否決を勝ち取れたのは、一般株主が味方に回り、それに加え最大株主「㈱はるか」を手中に収めていたからです。

 とはいえ今回の内紛劇は正史氏と典子氏のどちらが勝っても、家族内の主導権の争いに過ぎず、「紳士服のはるやま」のブランドや事業にとっては、一族経営に変わりないように見えますが、「大塚家具」の顛末を知る限り、そうとは言い切れません。

 家族経営企業の内紛として近年話題となったのが、家具販売の大塚家具における創業者・大塚勝久氏と娘・久美子氏の対立です。この〝親子喧嘩〟の発端は、2015年に自社株を使った相続税対策についての認識を巡る対立からでした。

 両者の対立は経営方針にまで及び、同年の株主総会では、勝久氏が娘の久美子社長を解任し、自らを現場に戻す内容の株主提案を提出。勝久氏が古参社員との絆や久美子社長の「冷徹ぶり」をアピールして株主の「情」に訴えかける一方、久美子社長は法令順守や企業統治などの言葉を駆使し、株主に利益分配し社会に貢献する企業としての在り方といった「理」で株主を説得すると、一般株主の80%以上、全体の61%が久美子社長を支持し、勝久氏の提案は却下されました。

 そうこう両者が対立している間に会社の業績は悪化の一途をたどり、状況を重く見た両者は歩み寄りをみせたものの、業績回復には至らず、2019年にヤマダデンキなどの持株会社ヤマダホールディングスの傘下に入ることになります。そして去年12月には久美子前社長が辞任してヤマダHDの三嶋恒夫社長が大塚家具の会長兼社長も務めることが決まり、大塚一族は経営陣から姿を消しました。その後大塚家具は、ヤマダHDの完全子会社となり、上場廃止を発表しております。

 お家騒動が拡大する前には、大塚家具の筆頭株主は創業者の勝久氏(18.04%)でした。また一族の持株会社である㈱ききょう企画も多数の株式を握り、そのほか勝久氏の妻の千代子氏、娘の久美子氏など、親族らがズラリと大株主のリストに名を連ねていました。

 それが今は、筆頭株主のヤマダHDが51.32%、その下にいくつかの企業が株主に名を連ねております。かろうじてききょう企画が0.74%、久美子氏の叔父の大塚春雄氏が0.77%を保有するものの、会社への影響力は無に等しくなっております。

 当時「大手量販店による低価格戦略に対抗し、会社が生き残っていくため」とった久美子氏の経営戦略が結果的に失敗したとはいえ、例え権力闘争で勝久氏が勝ったとしても会社が生き残っていたとは言い切れません。問題だったのは経営権を握る一族が内紛を起こし、企業としての意思統一ができなかったことに起因しているからです。後継者の久美子氏と経営方針の共通認識を承継前にすり合わせていれば結果は違ったものになっていたかもしれません。

 異なる企業風土を持つ経営者が新風を吹き込むことは会社成長につながり、決して外部から経営者を呼ぶこと自体が悪いことではありません。オーナー一族にとって重要なのは、自社株が流出する展開に陥らないことです。あくまでオーナー一族とそれ以外と、法務面と経営面しっかり権限の線引きをしていかないと、会社自体を乗っ取られることになりかねません。自社株の過半数を握られた時点で、会社が他人のものになってしまうことを踏まえて、自社株を手放す展開にならないよう、オーナー一族は万全な対策が求められます。

 

文責 仙台市で相続税に特化した税理士事務所|栁沼隆 税理士事務所

所長 栁沼  隆

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