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 預貯金等紹介業務のデジタル化サービス(ピピットリンク)を、去年10月から全国の国税局・税務署で利用を開始しています。ピピットリンクとは、行政機関から金融機関への預貯金の照会業務をオンライン化することで、システム処理が可能となり、事務処理等にかかる業務負担の軽減を可能にするサービスです。これにより税務調査の効率化がかなり図られることになります。

 税務調査でターゲットが利用している銀行を把握する手段として、臨宅調査時に電話帳や手帳を提出させたり、カレンダー、伝言メモ帳など銀行からの配布品から取引銀行を見つけ出したりするなどの方法があげられますが、圧倒的に多いのが絨毯爆撃による無差別調査です。

 税務署はターゲットがどこの銀行に預金口座があるのかを事前には知りません。もちろん過去の調査資料や取引資料から把握している口座もありますが、知りたいのは帳簿から除外している口座(簿外口座)や個人的に使っている口座です。

 簿外口座を見つければ、売上除外などの故意を認定して重加算税を賦課できますし、個人的な遊興費の口座を見つけ出せば、申告所得との乖離を指摘して修正申告を迫ることもできます。税務調査員はそのために必死になって調査中には出してこない口座を探すのですが、最も有効に効果が発揮されるのが絨毯爆撃です。

 絨毯爆撃はその名の通り、ターゲットの居住地や勤務先など口座開設しそうな場所に取引照会を撒く方法です。具体的には、居住地の半径10キロ圏内にある金融機関を住宅地図から調べ上げて、片っ端から照会文書を出すという方法ですが、その労力の割にはヒットする確率が低く成果は薄いと聞きます。

 もちろんすべてのターゲットに銀行調査を行うわけではなく、必要がある場合に限られるのですが、特別調査班の事案でしたら基本的に1ターゲットに20行程度の紹介を行いますし、相続税の調査でも銀行調査は欠かせないものです。

 各税務署の個人課税部門、法人課税部門の特別調査班で40件、資産課税部門の対象者で20件程度、そのほか特別調査官部門で20件程度を調査するとなりますと、あっという間に一つの税務署で80件程度のターゲットが選定されることになります。

 宮城県内には10の税務署がありますので、税務調査最盛期には単純計算で10署×80件×20行と、1万6千件の銀行照会件数が発生することになります。こうなりますと、絨毯爆撃を受ける銀行側はたまったものではありません。

 一方、調査官側も限られた期間内に調査を終わらせなければならないので、銀行調査を効率的に行わなければなりません。例年なら税務調査の最盛期は9月から12月までの4カ月しかなく、回答は出来るだけ早くほしいのですが、取引照会が戻るのは早くても3カ月もかかります。

 そのため、多くの場合は税務調査の着手直後に絨毯爆撃に入り、並行して帳簿や領収書などを調査して不審点を見つけ出しながら、取引照会の回答を待つことになります。調査終了後に簿外資産を把握しますと再調査にならざるを得ないので、回答を待たずに直接口座開設支店に訪問して自ら調査を行う場合も少なくありません。

 このように税務署と銀行のお互いの思惑が一致して導入されたのがピピットリンクです。税務署と金融機関の双方が加入することで、電子データによる預貯金等紹介が可能となりますので、郵送コストや回答までのタイムログが大幅に軽減され、迅速かつ適正な業務の実現につがなる事はもちろんのこと、銀行側の照会文書を取り扱う人的負担が軽くなることが最も大きな効果となります。銀行側にとって預金照会文書といわれるものは税務調査に使われる公文書に対する回答なので、担当行員の計り知れない心理負担が課せられます。

 守秘義務でうかつに口外できないことはもちろんのこと、各税務署や警察によって回答書のホームが異なり、個人なら12月31日現在の預金残高、法人なら各決算期末の残高の記帳を過去3年間程度求められます。

 記載誤りは厳禁だったので、ピピットリンクに移行することで全ての加入機関が統一のフォーマットになり、効率的に業務が遂行できるようになります。現在は全国188の自治体、また40の金融機関に採用されているとのことですが、デジタル化の時代に加入の拡大がどんどん加速し、将来はマイナンバーが預金口座に紐づけされた時のプラットフォームになるのかもしれません。

 マイナンバーで全ての預金口座が紐づけされれば税務調査は大きく変わることになります。国民の金融資産を正確に把握できることになり、脱税の大きな抑止力になります。例えば相続税の調査では、複数口座に分散させた遺産の一部だけを申告して相続税を免れるケースが後を絶ちませんが、マイナンバーの導入が進めれば、全国に散らばった預金を一網打尽に把握できます。

 また個人事業者や法人事業者が脱税のツールとして使っている架空名義の口座をあぶり出すことができます。脱税の手口は意外と単純で、売上の把握が難しい水商売などの現金商売は売上を誤魔化し、売上を誤魔化すことが難しい建設業界などは経費を誤魔化す傾向があります。架空経費の代表選手は架空外注費や架空コンサルタント料、架空業務委託費などです。

 多額の経費を支払ったとして現金の領収書を提示したとしても調査官は簡単には納得しません。なぜなら一定額以上の資金決済は、振り込みや手形の使用が当たり前だからです。そのため脱税のツールとして架空名義の口座が必要になってきます。

 マイナンバーが預金口座に紐づけされれば、架空口座が減って脱税が減ることは間違いありません。税務署はより悪質な手口を摘発することに力を注ぐことができるようになります。

文責 仙台市で相続税に特化した税理士事務所|栁沼隆 税理士事務所

所長 栁沼  隆

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