kimono4

 今年4月1日から、成年年齢がこれまでの20歳から18歳に引き下げられました。成年年齢の見直しは約140年ぶりで、これまで成人であることを条件としてきた様々な法律行為に影響を及ぼす大改正です。同時に男女の婚姻可能年齢が18歳で統一されるなど細かい見直しもあり、相続対策を考える上でも今回の法改正は無視できません。

 日本における成年年齢見直しの議論は、18歳~19歳の若者の社会参加を促すという目的のもと、公職選挙法などにおける選挙権年齢の引き下げという形で始まりました。既に選挙権は2016年に18歳以上に引き下げられていて、民法が後追いするという格好になっています。法務省は今回の見直しを「若者の自己決定権を尊重するものであり、その積極的な社会参加を促す」と意義を説明しています。

 日本の成年年齢は、これまでは諸外国に比べても高く、例えば米国は州によって差はあるもののおおむね18歳で、イギリス、ドイツ、フランスなども18歳を成年年齢としています。今回の見直しで、ようやく日本も〝世界基準〟となるわけですが、とはいえこの成年年齢は明治9年以来のおおよそ140年ぶりの大改正となるだけに、その影響は多岐にわたります。

 例えば18歳、19歳の人は4月1日以降、親の意向を得ずに様々な契約をすることができるようになりました。携帯電話を購入する、アパートを借りる、クレジットカードを作成する、ローンを組むといったことが可能となるわけです。

 また成人になるということは、親権に服さなくてもよいということを意味し、自分の住む場所を自分の意思で決めたり、進学や就職などの進路決定についても自分の意思で決めたりすることができます。そのほか10年有効のパスポートの取得や、国家資格に基づく職業に就くこと、性別の変更審判を受けることなども可能となります。

 一方、今年4月以降も変わらない点もあり、民法の成年年齢が18歳に引き下げられても、酒やたばこに関する年齢制限については20歳のままです。また競馬や競輪といった公営ギャンブルの年齢制限も20歳のままです。

 成年年齢の引き下げとともに行われるのが、女性の婚姻開始年齢の引き上げです。これまでは婚姻開始年齢は男18歳、女16歳と性別で差がつけられていました。この理由は、男女間で心身の発達に差異があるからというものでした。しかし今日では心身のみならず社会的、経済的な成熟度といった観点でも、男女間に差をつける合理的な理由は存在しません。そこで今年4月から男女ともに婚姻開始年齢が18歳に統一されています。ただし今年4月1日時点ですでに16歳以上の女性は、引き続き18歳未満でも結婚することができます。民法では結婚している人については未成年であっても法律上の契約行為を認める「成年擬制」という制度が存在しますが、今回の法改正によって婚姻開始年齢と成年年齢が一致しますので、成年擬制も自然消滅することになります。

 そして成年年齢の引き下げによって気になるのが税への影響です。税の世界にも成人であることを条件にしている制度は多く、当然それらは今回の改正に伴い見直されることになります。

 例えば、相続税の未成年者控除があります。財産の取得時に相続人が未成年であれば税額を控除できるというもので、これまでは満20歳になるまでの年数1年につき10万円が差し引けました。今回の改正で成年年齢が2歳引き下げられると。これまでより控除できる額が減ることになります。

 贈与税では、父母や祖父母などの直系尊属から20歳以上の子や孫が贈与を受けた時には有利な特例税率を適用するルールがあります。これも成年年齢引き下げで18歳に引き下げられますので、今までより2年早く生前贈与を使った相続対策が可能となります。

 また親や祖父母からの贈与について2500万円までを贈与税から控除できる「相続時精算課税」も受贈者の年齢について20歳以上という要件を定めていましたが、これも18歳以上に改められます。結果改正後は同制度を2年早く利用することができるようになりました。

 さらに子や孫の結婚.・出産・育児資金の一括贈与を非課税にする特例も、受贈者の年齢要件が20歳以上から18歳以上に引き下げられました。2年とはいえ早期の資産移転をしやすくなったことは、相続対策に少なからず影響を与えそうです。

 ほかに税への影響として個人住民税があります。個人住民税が課されない条件に「未成年者のうち前年の合計所得金額が135万円以下の人」とされているので、これまではアルバイトで100万円を超える所得を稼いでいても、18歳や19歳なら住民税が課されませんでした。今後はこうした人には税が課されますので、働き方の調整が必要になるかもしれません。

 最後に離婚後の養育費について「成年に達するまで養育費を支払う」との取り決めがされていることがありますが、成年年齢の引き下げによりこのような取り決めはどうなるかについて法務省は、「取り決めがされた時点では成年年齢が20歳であったことからすると、成年年齢が引き下げられたとしても、従前どおり20歳まで養育費の支払い義務を負うことになると考えられます」と解釈しています。

文責 仙台市で相続税に特化した税理士事務所|栁沼隆 税理士事務所

所長 栁沼  隆

「所長の独り言」一覧はこちら

 

免責
本記事の内容は投稿時点での税法、会計基準、会社法その他の法令に基づき記載しています。また、読者が理解しやすいように厳密ではない解説をしている部分があります。本記事に基づく情報により実務を行う場合には、専門家に相談の上行うか、十分に内容を検討の上実行してください。当事務所との協議により実施した場合を除き、本情報の利用により損害が発生することがあっても、当事務所は一切責任を負いかねます。また、本記事を参考にして訴訟等行為に及んでも当事務所は一切関係がありませんので当事務所の名前等使用なさらぬようお願い申し上げます。