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国税当局は税金を取れるようにしか事実認定をしませんので、税務調査では国税当局がどう動くかをまず考える必要があります。たとえ法律上の問題をクリアしたとしても、なんとか税金を奪ってやろうと思うのが税務署の常ですので、節税をするにあたり、それに対して当局の立場に立ってどうすれば税金を取れるのか、それを考えたうえで、事前に対策をしなければなりません。

 先日の裁決事例で、夫婦間の資金の移転に対して、国税当局が贈与と判断して贈与税を追徴したものの、審判所で取り消された事例があります。この事例では、夫のお金で生活していたパートの妻名義の預金が、夫の相続税の税務調査で問題となりました。

 パートしながらの預金ですから、その預金の原資は、亡くなられた夫のものと疑われました。加えて、その預金で夫は株の購入をしていたようです。となると、預金の原資もその預金の管理も夫ということで、名義預金として相続税の課税価格に含まれると思われます。 

実際のところ、税理士も夫の名義預金と考えたからか、夫の相続税の申告後、この預金は名義預金であるという理由で相続税の修正申告をしました。

しかし、ここで問題になったのは、配偶者の税額軽減という制度です。配偶者の税額軽減は、1億6千万円と、相続財産に対する配偶者の法定相続分のいずれか大きい金額までであれば、配偶者に対して相続税がかからないという軽減措置です。本件で妻はその制度を使うことで、先の名義預金を夫の財産として申告したとしても、追徴税額は0円と計算されました。

判例などで確立した名義預金の判断基準に照らしても、預金の原資が夫で、管理なども基本的に夫が行っていますから、名義預金にあたり、夫の相続財産と判断すべき事項です。しかしながら、そうなると配偶者の税額軽減で相続税は取れませんので、国税当局は税金を取るためだけに、配偶者に夫がお金を贈与したとして、贈与税を課税したのです。

幸いにも裁決で国税当局の処分は取り消されましたが、国税当局は税金を取れるようにしか事実関係を判断しなかったことになります。

事実認定を確立するためには、契約書などの作成をして対処しておくだけではなく、税務調査においては、無茶なことをいう調査官については、あらゆる判例を駆使し、事実誤認として調査官を論破していかなければなりません。

 

文責 仙台市で相続税に特化した税理士事務所|栁沼隆 税理士事務所

所長 栁沼  隆

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