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 ある資産家が、長年にわたり介護などを担当してくれた家政婦さんに恩義を感じ、財産のいくばくかを分け与えたいと考えたとします。家政婦さんの貢献については親族らも感謝していて、異論はありません。そのようなケースで、実際に資産を分け与えないうちに資産家が急死してしまったらどうなるのか。

 故人の意思は関係者全員が確認していて、相続人も納得しています。では相続人らによる遺産分割協議書でその旨を盛り込めばよいかといえば、残念ながらそうはなりません。遺産分割協議によって財産を取得できるのは、法定相続人のみと決まっているからです。

 法定相続人とは、第一に夫や妻などの配偶者と子(子が亡くなっていれば孫)、それに該当する人がいなければ親と祖父母、それもいなければ兄弟姉妹(兄弟姉妹が亡くなっていればその子)に限られます。これに当てはまらない人は、原則として遺産分割協議で財産を受け取ることはできません。関係者全員が納得ずくでも、制度上、家政婦さんは1円も財産を受け取れないことになります。

 唯一の例外は、遺言がある場合です。遺言の中で相続人以外に財産を渡す旨をしっかり書いておけば、法定相続人以外でも相続財産を受け取ることができます。つまり遺言がなければ法定相続人以外に遺産を直接渡すことは不可能ということになります。

 現実問題として「それでも家政婦さんに遺産を受け取ってほしい」と考えた場合はどうするのか。そのときは、まず法定相続人が遺産分割協議によって遺産を受け取ったうえで、相続人から家政婦に財産を贈与するという形をとらざるしかありません。この時には、相続人には相続税が、家政婦には贈与税がかかることになります。

 こうした事態を避けるためにも、お世話になった家政婦のように血縁のない第三者、あるいは孫に直接財産を渡したいときは、かならず遺言を作成する必要があります。

文責 仙台市で相続税に特化した税理士事務所|栁沼隆 税理士事務所

所長 栁沼  隆

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