第1084話 税金裁判

所得税や法人税、相続税などは申告納税制度を採用しており、原則納税者の申告によって納付すべき税額が決まります。そして当初の申告にかかる税額が間違っていた場合には、更正の請求や修正申告で正しい申告内容に直す権限もあります。
ただしその前に、税務署が更正という課税処分をすることがあります(国税通則法第24条)。また、税務官庁の更正または決定(無申告者に対する課税処分)をさらに変更する再更正をする場合もあります。再更正は、更正同様、増減いずれの変更もできます。
税務署の更正処分などに納得できない場合には、一般的に納税者は、不服申立て(再調査の請求や審査請求)をして争うことになります。課税処分(更正・決定)に不服があったとしても、すぐに裁判ができるわけではありません。
つまり納税者は国税不服審判所長の裁決を受けた後、なお処分に不服があるときは、裁決の通知を受けた日の翌日から6カ月以内に裁判所に「訴訟」を起こすことができることになります。また審査請求から3カ月が経過した時には、裁決がなされる前であっても裁判所に対して訴訟を提起することができます(国税通則法第115条)。
税金裁判で最も重要なのは、課税要件事実の認定を巡る争いです。税法は特殊であるため、通常の裁判官は要件事実の認定に関する専門的知見がありません。このために、裁判官は裁判所調査官の調査や意見に依存しがちになります。問題なのは、この裁判所調査官の多くは、国税庁から出向している職員が担当している点です。これ一つ見ても、原告納税者の法廷での闘いは、極めて不利とならざるを得ません。
仮に勝訴したとしても、多大な費用、労力、時間がかかりますので割に合わない結果となります。
最近、頻繁に行われている税務署が納税者に対して「お尋ね」の回答を求める行為は、行政手続法上の行政指導に該当します。この行政指導の一般原則については次のように定めています。
行政指導に当たっては、行政指導に携わる者は、いやしくも当該行政機関の任務又は所掌事務の範囲を逸脱してはならないこと及び行政指導の内容があくまで相手方の任意の協力によってのみ実現されるものであることに留意しなければならない(第32条第1項)
行政指導に携わる者は、その相手方が行政指導に従わなかったことを理由として、不利益な取扱をしてはならない(同条第2項)
行政指導に携わる者は、その相手方に対して、当該行政指導の趣旨及び内容並びに責任者を明確に示さなければならない(第35条第1項)
つまり、行政指導というものは、税務調査とは違い、あくまで任意の協力によってのみ実現し、行政指導に従わないことを理由として不利益な扱いはされないこと。納税者に対してその指導の趣旨、内容、責任者を明確に示さなければならないことを義務付けています。
文責 仙台市で相続税に特化した税理士事務所|栁沼隆 税理士事務所
所長 栁沼 隆
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