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 税理士法人の職員が、税理士が関与した犯罪について司法取引を行いました。司法取引制度は2018年度にスタートしましたがほとんど利用されず、今回の事件が5年ぶり、4件目の適用事例となります。これまでの3件は、いずれも東京地検特捜部が扱った事件で、警察が捜査した事件への適用は今回が初めてです。

 対象となったのは、兵庫県内の自動車販売会社が2020年10月から21年2月にかけて、粉飾した決算報告書で銀行に融資を申し込み、4000万円を騙し取ったとされる事件。兵庫県警は昨年11月と今年2月、この会社の元役員や税理士、税理士法人の職員ら計5人を詐欺容疑で逮捕しました。

 捜査では、詐欺を働いた会社の財務状況を税理士らがどれだけ把握していたかが焦点となりました。この点について、司法取引に応じた税理士法人職員の供述などから、厳しい財務状況を税理士も認識した上で粉飾決算が行われていたことが明らかになりました。司法取引に応じた職員は起訴されませんでした。

 司法取引は米国では伝統的に犯罪捜査に取り入れられ、マフィアなどの組織的犯罪や企業がらみの経済犯罪を捜査する際に役立てられてきました。日本では2006年に、入札談合などを自己申告した企業の課徴金を減免するリニエンシー制度を導入。最初の段階では利用されませんでしたが、徐々に申請件数は増えて、2016年5月には刑事司法改革関連法案として日本版の司法取引「協議・合意制度」が成立しています。

 日本版の司法取引制度は、自身の犯罪は対象とはせず、あくまでも他者の犯罪についての情報提供を材料とする取引のみにとどめているのが特徴です。

 第三者の罪について供述すると、司法取引をした本人は

①不起訴になる

②軽い罪で起訴される

③起訴後に軽い犯罪に変更される

④即決裁判という簡単な手続きで処理される

⑤略式命令で処理される

⑥求刑が軽くなる

などの恩恵を受けられます。

脱税事案も対象となることから、組織ぐるみの脱税などでの司法取引が増えることも予想されましたが、これまでに取引が行われたのは、2016年の三菱日立パワーシステムズの贈賄事件、日産自動車のカルロス・ゴーン元会長の不正疑惑、そして2019年に適用された都内アパレル企業の業務上横領の3件のみです。今回は、税理士が関与した事件への初適用となりました。

この制度が普及しない背景には、司法取引に応じた協力者の供述は冤罪を生み出しかねないとして、司法が証言を重視しない点が挙げられます。適用3件目となった業務上横領の判決では「司法取引によって得られた情報の信用性の判断に際しては、相当慎重な姿勢で臨む必要があると考えられる。極力、争点の判断材料としては用いない。」と司法の消極的な姿勢を示しています。

文責 仙台市で相続税に特化した税理士事務所|栁沼隆 税理士事務所

所長 栁沼  隆

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