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去年、税金や社会保険料の滞納が一因となった倒産が、過去最多の176件(前年比91.3%増)に達しました。 前年の92件から1.9倍と大幅に増えております。 過剰債務を抱え、新たな資金調達が難しい中小企業が多くなってきています。

さらに、円安に伴う物価上昇や人材確保、賃上げなど、様々なコストアップで収益が悪化している企業は少なくありません。このような苦しい状況下にある生活困難者のためにも納税の緩和制度をぜひ知っていただきたいと思います。

 国税通則法(以下「通則法」)は、納税者が納期限までに国税を完納しない場合には、原則として納期限から50日以内に督促状により納付督促を行います(第37条)。そして督促をしても納付されないときには、その税を強制的に取立てる滞納処分へと手続きが進みます。

 国税徴収法(以下「徴収法」)は、 「滞納者が督促を受け、その督促に係る国税をその督促状を発した日から起算して10日を経過した日までに完納しないとき」は財産を差し押さえると規定しています。(第47条第1項第1号)

 滞納処分は大きく分けて、差押、換価(租税債権を強制的に実現するため差押財産を入札等により公売)、換価代金の配当(租税へ充当・他の債権者に配当・滞納者に残余金を交付)の3段階からなります。

 納付すべき税額が確定したら、納税者はその確定した国税を納期限までに納付しなければなりません。しかし例外的に納付を強制しない納税の緩和制度があります。その概要を説明します。

 

⑴納期限の延長

災害その他やむを得ない理由により、各税法に基づく申告、申請、請求、届出、その他書類の提出、納付または徴収に関する期限までに、その書類の提出や納付ができない場合には、その理由がやんだ日から2カ月以内に限り、これらの期間を延長することができる(通則法第11条)。

 

⑵延納

所得税の確定申告による第3期分の納付すべき税額について、その法定納期限(3月15日)までに1/2以上の額を納めると、その残額についてその年の5月31日まで延納が認められる(所得税法第131条)。相続税や贈与税についても金銭納付が困難な場合に延納が認められる(相続税法第38条)。

 

⑶納税の猶予

納税者が、次の①から④に当てはまれば、原則として1年以内の期間、納税が猶予される(通則法第46条)

 

①(イ)災害や盗難、(ロ)本人や家族が病気・負傷、(ハ)事業を廃業・休業、(ニ)事業が著しい損失を受けた、(ホ)前記(イ)~(ニ)に類する事実がある、(ヘ)本来の期限から1年以上経過した後に修正申告などにより納付すべき税額が確定
― のいずれかに該当する。

②猶予に当てはまる事実に基づき、一時に納付することができない。

③申請書を提出する。

④猶予を受ける金額が100万円を超える場合、原則として、担保の提供をする。

 

⑷徴収の猶予

更正の請求や不服申立てを行った場合に徴収が猶予されることがある。

 

⑸延滞税の免許

納税者が

①災害により、納期限前の納税の猶予を受けた場合

②災害、病気等により、滞納国税の納税の猶予を受けた場合

には、延滞税の免除の対象となる。

 

⑹換価の猶予

差押えに係る国税が納付されないときには、原則として差押財産を換価してその代金を滞納税金にあてることになる。しかし

①換価手続を直ちにとれば、その事業承継又は生活維持を困難にするおそれがある

②換価を猶予することが、直ちに換価することに比べ国税の徴収上有利なとき
- などには、滞納者の事情を考慮して、滞納処分による財産の換価を猶予することになっている(徴収法第151条)。換価の猶予期間は1年以内、延長しても2年以内である(徴収法第152条、通則法第46条)。

 

⑺滞納処分の停止

税務署長は、滞納者につき次の各号のいずれかに該当する事実があると認めるときは、滞納処分の執行を停止することができる。

①滞納処分を執行することができる財産がないとき

②滞納処分を執行することによってその生活を著しく窮迫させるおそれがあるとき

③その所在及び滞納処分を執行することができる財産がともに不明であるとき

 

2 税務署長は、前項の規定により滞納処分の執行を停止したときは、その旨を滞納者に通知しなければならない。

 

3 税務署長は、滞納処分を停止した場合において、その停止に係る国税について差し押さえた財産があるときは、その差し押さえを解除しなければならない。

 

4 滞納処分の執行を停止した国税を納付する義務は、その執行の停止が三年間継続したときは、消滅する。

 

5 滞納処分を停止した場合において、その国税が限定承認に係るものであるとき、その他その国税を徴収することができないことが明らかであるときは、税務署長は、その国税を納付する義務を直ちに消滅させることができる。

 

滞納処分の停止は、納税者に滞納処分の対象となる財産がない、滞納処分の執行によって滞納者の生活を著しく窮迫させるおそれがある場合等に適用されます。

滞納処分の停止は、税務署長の職権に基づくものですが、滞納処分の停止をするかどうかは、税務署長のいわゆる裁量に委ねられているのではありません。

法において「…できる」というのは、一定の要件を充足する「事実がある場合」ということを受けて、つまりそのような場合に限って「できる」という意味であって、ここでいう「できる」はそのような一定の要件を充足するときはむしろ「…しなければならない」と解釈すべきだからです。

 

⑻土地建物を所有している場合

滞納者が土地建物を所有していると滞納処分の執行停止はできないのでしょうか。

憲法では「財産権は、これを侵してはならない」(第29条第1項)、「財産権の内容は、公共の福祉に適合するように、法律でこれを定める」(第2項)としています。ここでの公共性は、大多数の国民の居住生活やそれと結びつく生産活動の場としての土地建物(生存権的財産・人権としての財産)を保障することです。

 生存権的財産は、売却を前提とする商品としての財産ではありません。したがって市場価格で評価する必要はなく、評価はゼロとすべきです。税金を滞納している多くの人々は、評価ゼロの生存権的財産を除くと、債務超過となり、ほとんどが滞納処分を執行停止することができる要件を充足することになります。そのような場合には土地建物を確保したうえで滞納処分の停止をさせて生活や営業を続けることが可能と考えられます。

文責 仙台市で相続税に特化した税理士事務所|栁沼隆 税理士事務所

所長 栁沼  隆

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