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新型コロナによって、今年春以降、特に富裕層にとって遺言書を書き残す理由が一つあります。それが4月1日にスタートした「配偶者居住権」制度です。

 これまでの法律では、遺産分割協議で配偶者が自宅を得るとそれだけで法定相続分を満たしてしまい、預貯金といった他の相続財産を十分に取得できない可能性がありました。逆に預貯金を相続すると家を失ってしまうことになってしまい、どちらにせよ生活は不安定にならざるを得ませんでした。そこで改正民法では、所有権が他者にあっても配偶者が住み続けることができるよう、家の価値を「所有権」と「居住権」に切り離し、配偶者はそのうち居住権のみを得れば家に住み続けられる「配偶者居住権」を創設しました。配偶者が居住権を得ることを選択すれば、他の財産の取り分が実質的に増えて、生活の安定につながります。

 配偶者居住権の要件には、

①遺産分割 ② 遺言による遺贈 

 によって居住権を取得することが規定されています。とはいえ①について、そもそも遺産分割が丸く収まるような相続であるのならこの制度を使わなくても、子が家を相続した上で配偶者を住まわせればいいだけの話です。配偶者の住まいを確保するためにわざわざ居住権の利用を検討するような険悪な関係では、そもそも他の相続人の合意を得られない可能性が非常に高くなります。そうなりますと必然的に、確実に配偶者居住権を使いたいなら、②の遺言をしっかり残す必要があるというわけです。

 ここで注意しておきたいのが、配偶者居住権は、趣旨としては子と折り合いの良くない配偶者を救済するためのものですが、逆に仲の良い家族だからこそ使える相続税対策があるということです。

 配偶者居住権は他人に売却できず配偶者が死亡した時点で消滅するというルールを踏まえ、あえて仲の良い家族が居住権を取得しておくと、将来の配偶者から子への相続の時点で税負担を大幅に減らすことができます。例えば父親が死亡して相続税評価額5千万円の自宅が残されたケースでは、所有権3千万円と居住権2千万円に分割して子と配偶者がそれぞれ相続したとします。将来的に配偶者が亡くなると、その時点で居住権は消滅しますので子には相続税がかかりません。(最低基礎控除額3千万円を引くと遺産総額がゼロになります)

父親から相続で得た自宅はそのままなので、子は5千万円の価値のある自宅を3千万円分の税負担で手に入れたことになります。

もちろん居住権の設定には、付随する様々な制限もある為、利用にあたっては慎重な検討が必要になりますが、むしろ配偶者の救済というよりは、こちらの節税手法としての活用が期待されます。配偶者居住権の利用は、今年4月1日以降に作成された遺言のみが有効となりますので、今年4月以降、遺言の書き直しに対する需要が高まっています。

文責 仙台市で相続税に特化した税理士事務所|栁沼隆 税理士事務所

所長 栁沼  隆

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