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 相続税法は申告納税制度を採用していることから、納税者は相続又は贈与により取得した財産の時価を自ら評価し、申告・納税する必要がありますが、財産の種類は区々であり、しかも置かれた客観的状況がそれぞれ異なることから、その財産の時価を評価することは容易なことではなく、これを納税者の自己評価に任せるとすれば、人により時価が異なり、不平等課税を招来し、しかも課税庁及び納税者双方に評価コストがかかることになります。

 このようなデメリットを解消して、課税の公平と課税コスト及び納税者の申告の簡便性に資するために創設されているのが財産評価基本通達(以下「評価通達」という)です。ところが、この評価通達が定める通達評価額が、時価に影響を及ぼす全ての事情を斟酌して評価されていない場合が発生することがあります。

 たとえば、路線価の公表後に地盤沈下などの事実が生じた場合には、時価は低減することから通達評価額により相続税の申告納税を行うことは「著しく不適当」な過大な申告となるので、その価額低減を考慮して評価するのが妥当であるこということはいうまでもありません。このような相続財産等の過大評価による申告を是正することが総則6項の本来の役割だったのです。

 ところが、その後、バブル経済の下で、納税者が高額な相続税等を軽減することを企図して、不合理、不自然な行為を行い、相続税の負担軽減を図る納税者が次々と現れたことから、その相続財産の通達評価額による申告を否認する根拠として、逆に総則6項が利用され、それを判決が支持することにより、あたかも租税回避行為の否認の一般的否認規定の性格を有するようになってきたのです。相続財産の過大評価の是正から相続財産の過小評価の是正へと真逆の性格になった総則6項について皆さんはどう思われますか?

 ところで、評価通達の時価は、課税時期において、それぞれの財産の現況に応じ、不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に「通常成立すると認められる価額」をいい、その価額は「この通達の定めによって評価した価額による」(総則1項②)とし、また、その「財産の評価にあたっては、その財産の価額に影響を及ぼすべき全ての事情を考慮する」(同③)と定めています。

 また「総則6項」では、「この通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められる財産の価額は、国税庁長官の指示を受けて評価する」と定めています。この総則6項の文言からすれば、何度も述べてきたように、通達評価額が一般的な時価に比較して、過大となる場合の救済の根拠規定が総則6項なのであります。

 国税庁長官が調査して公表した路線価等の評価額が、「著しく低額であり不適当である」というのであれば、それを改定して次年度の評価額として適用すればよいのであって、それを遡及して更正処分を行うことは不条理と思われます。

 総則6項の適用事例のうち、その否認が許される場合と、許されない場合の判決事例について次回から比較検証してみましょう。

文責 仙台市で相続税に特化した税理士事務所|栁沼隆 税理士事務所

所長 栁沼  隆

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