第1149話 相続時精算課税のデメリット

令和6年の相続時精算課税制度の要件緩和により、制度を適用する納税者が増えてきました。しかし、制度の最大のリスクである「時効がない」という点については、まだまだ納税者の認知が足りていません。制度を選択してから行われる、親などから受ける生前贈与により取得した財産について、贈与者の相続時の相続財産に加算して相続税を計算する仕組みなので、贈与のタイミングがいつであろうと、相続税として課税されるわけです。
例えば、時効がない点から、大きな問題になるのが借地権の課税です。所有する土地を貸す場合、所定の権利金を借主からもらわない場合、原則として借地権を借主に贈与したとして取り扱われます。借地権の価額は、土地の価額の一定割合とされていますので非常に大きな金額になり、結果としてこの課税がなされると、多額の贈与税が課税されることになります。
このように怖い課税ですが、実務で問題になることはそこまで多くありませんでした。特例で課税されない場合があることに加え、借地権を贈与したとされるタイミングは借地権を設定したタイミング、すなわち土地の賃貸借契約の成立時点とされるからです。借地権を設定しても登記がなされるわけでもありませんから、賃貸借契約が成立しても税務当局が気づかず、暦年課税の贈与税の時効である6年を経過したケースが多くあります。
それにとどまらず、この借地権の課税は非常に複雑なので、この取り扱いに詳しくない調査官も多くいます。結果として、仮に6年の時効が成立する前に調査がなされたとしても、調査官が借地権の課税に気づかないということも多くあります。
しかし、相続時精算課税制度を一旦選択してしまうと、この時効が結果としてなくなるわけですから、見過ごされてきた借地権の課税についても、相続税調査のタイミングで確実に問題になると解されます。
実際、要件緩和される前の制度の適用に関する事例ですが、借地権の設定時に贈与税の申告をしなかった相続時精算課税制度を選択した納税者について、この借地権を相続税でも申告しなかったため、相続時精算課税適用財産の申告漏れとして多額の税金が課税された事例が報道されています。
それにとどまらず、相続時精算課税制度を選択した場合、相続時には、贈与時に課税される金額をベースに相続税が計算されるので、課税対象となるのは、贈与時に適用される法律で計算されなければなりません。結果として、当時の贈与税の法律の取り扱いも覚えておかないと計算できないことになります。
文責 仙台市で相続税に特化した税理士事務所|栁沼隆 税理士事務所
所長 栁沼 隆
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