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 東京五輪で新設した競技施設のほとんどで赤字収支が見込まれています。東京都は約1400億円をかけて6つの恒久施設を新設しましたが、年間収支が黒字となるのは「有明アリーナ」1つだけとなっています。ほかの5つの今後の年間収支は赤字となり、その赤字額は合計約10億8500万円にのぼります。また国が約1569億円をかけて新設した新国立競技場は民間企業への売却をめざしているものの、管理・運営費が年間24億円に上ると試算されているうえ、観客席に空調施設がない、屋根がないなど特殊な仕様になっており、コンサート等のイベント開催に向かず売却先探しに難航すると見られています。

 競技施設を維持していくには赤字分を税金で補てんしなければなりませんが、収支に全く改善の見通しがたたないとなりますと、多額の予算を割いて数々の感動を生んだ競技施設そのものが放置・撤去される可能性すら取り沙汰されています。

 実際、過去の五輪では運営上の採算が取れずに競技施設が放置されたり撤去されたりしてきた歴史があります。2016年のリオデジャネイロ五輪では、大会後に小学校として活用する予定だったフェンシング競技場の改修費4億円が支払えず、そのまま放置されています。改修費を捻出できない理由は、大会後の市の財政悪化によるものです。その他、自転車やテニスの競技会場も採算がとれずに大会終了後に放置され廃墟と化しています。

 また1998年に開催された長野冬季五輪で、1010億円かけて建設された「長野市ボブスレー・リュージュパーク」をめぐっては、年間2億2千万円に上る多額の管理・運営費の負担により経営難となり、長野市は2017年に競技施設としての活用を断念するに至りました。

長野市が競技施設の建設費用への充当を目的に借り入れた約700億円を償還したのは大会から20年後の2018年でした。

 しかし、今回の東京五輪はこれまでの大会よりも深刻な状況です。大会経費が過去最高までに膨らんだうえ、インバウンドをはじめとした経済効果も期待できず、都や国は多額の赤字を既に背負っています。経費の詳細は今年にかけて詰められますが、現時点でも都の負担額は計1.4兆円以上、国の負担額は計1.3兆円以上になる計算です。

 また関西大学の宮本勝浩名誉教授のレポートによりますと、都が約32兆円と試算していた経済効果もコロナ禍の影響を受けてほとんど消失し、約6.1兆円にとどまったうえ、赤字総額は約2.3兆円に上ることが分かりました。赤字の内訳は組織委が約900億円、都が約1兆4077億円、国が約8736億円となっています。組織委の900億円は無観客開催によるチケット売上の消失分で、原則として都が補てんする取り決めになっています。

 さらにコロナ禍の財政支出により都の財政状況はひっ迫しています。経済対策などに1兆6300億円を投じた影響で、自治体の内部留保に当たる財政調整基金の2021年度末の残高見込みは1976億円にとどまり、過去最大だった2019年度末(9345億円)からコロナ禍の間に5分の1近くにまで落ち込みました。

 五輪開催を通じて既に大幅な赤字が発生しているうえ、コロナ禍の影響により都も国も財政に余裕がなくなっており、このままでは赤字分を国民が負担することはおろか、かつての大会のように競技施設が放置・撤去されるとの懸念はぬぐえません。施設運営を出たとこ勝負で行うことはやめてもらいたいものです。

文責 仙台市で相続税に特化した税理士事務所|栁沼隆 税理士事務所

所長 栁沼  隆

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