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 会社の資金繰りが一時的に苦しくなった時に、社長個人の口座から3億円を引き出して会社が借り入れたとします。こうした社長からの借金を「社長借入金」といいますが、もしこの借入金が返済されないまま社長が亡くなってしまいますと、3億円の債権がそのまま社長の相続財産として相続税の課税対象となってしまいます。預金3億円を借入金に変えただけなので財産の総額自体は同額になるという理屈です。こうした社長借入金は大なり小なりどこの中小企業でも見られるため、失念していると相続発生時に問題となる事も多くみられます。

 しかし財産評価基本通達では、返済される見込みのないことが確実な借金に対しては、相続税の課税対象としないこととしています。ただしこの処理が認められるには相応の根拠が必要で、例えば裁判所から出される「特別清算の開始命令」などが該当します。この命令によって「会社が債務超過で、債権者にお金を返せる見込みがない」と認められたことになります。

 一方、事業が継続していて、特別清算といった法律手続が開始されていないのであれば、相続税は容赦なく課税されることになります。こうした事態を避けるには、生前に社長が会社に債権放棄を申し出ることなどが考えられるでしょう。「債権放棄通知書」を作成し、会社に送ることにより、3億円の借入金はなくなり、相続税がかからなくなります。しかし反面、会社は借金の免除を受けたことで、3億円の債務免除益を得たことになります。今度は法人税がかかることになるということです。ですので、債権放棄をするときには、欠損金の確認が必須となります。欠損金があるならば、借入金の免除による利益と赤字を相殺できます。赤字決算になりそうな年は、せめて社長借入金を相殺することで将来の税負担を軽減することを考えてみてください。

文責 仙台市で相続税に特化した税理士事務所|栁沼隆 税理士事務所

所長 栁沼  隆

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