第1079話 贈与行為の判断
贈与があったかどうかの判断は非常に難しいのです。なぜなら贈与は贈与者の贈与する意図、そして受贈者の贈与を受ける意図が合致して成立するとされているからです。
「贈与する意図」も「贈与を受ける意図」も主観的なもので証拠が残りにくいため、客観的に贈与があったと立証することは非常に困難ですが、贈与税の課税には、税務当局は贈与があったことを客観的に立証しなければなりません。
この点を踏まえ、税務当局は登記をする不動産や登録が必要な自動車については、その所有者の名義を変更したタイミングで、当事者間でお金のやり取りがなければ原則としてその名義変更を贈与としています。
しかしその一方で、単純ミスや誤解で名義を変えてしまうような、贈与したりもらったりする意図がないのに登記や登録を変えることも実務ではあり得ます。このような場合は贈与として扱うことは妥当ではありませんから
①単純ミスなどで名義を変えたことが客観的に確認でき
②贈与税の申告等の期限までに名義を真実の所有者に戻す
場合には、いったん名義を変えたとしても、原則として贈与としないと税務当局の通達で規定されています。
ところでこの取り扱いについて、この要件に則っていない場合にも贈与とされないかどうか問題になった裁決事例があります。この事例では、父が車の購入資金を出したものの、その登録の名義人は子とされていました。理由として、子供名義で車を買うと売主から特典が与えられたからです。すなわち単に子供の名義を借りているにすぎませんので、購入資金はもちろんのこと税金や維持費の支払も父が行っていました。このため父も子も車の贈与があったという認識はなかったわけですが、税務当局は税務調査の際、名義を真実の所有者である父に戻していないことを指摘したうえで、②の通達の手続きに則っていないため、贈与がなかったとすることはできないとし、贈与税を課税しました。
もちろん裁決ではこの課税は取り消されています。通達は税務当局の内部の命令ですので、納税者はそれに従う必要はないという大原則があるからです。このため、この通達の手続きに則っていなくとも、贈与の意思も受贈の意思もないことを納税者が客観的に示すことができれば贈与などないわけで、そうなると贈与税も課税されません。
なおこの事例では、子が車種や色について意見を述べていない点も重視されています。贈与を受けるなら当然父にこれらの意見も言うはずだからです。
文責 仙台市で相続税に特化した税理士事務所|栁沼隆 税理士事務所
所長 栁沼 隆
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